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2024年05月19日
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僕に光を彼女に花束を 5

2009年06月12日

僕に光を彼女に花束を 5


 

5代目火影である綱手様が頭を下げる。
それを押しとどめようとしたナルトの顔は泣きそうだった。
 

それから数日後。ナルトと顔を合わせた。
「今日はあまり進んでないね」
僕が指摘するとナルトはハッとした表情をして「そんなことないってばよ!」と本日の注文、御前汁粉の付け合わせの香の物をすばやく口にした。
こくんと飲み込んだナルトが笑顔を浮かべようとして。そして失敗した。
「隊長」
「なんだい」
「ごめんなさいってば」
「婚約のことで謝っている?だったら別にその必要はないよ」
そう言ってお茶を口にすると俯いてしょげていたナルトが上目遣いで僕の反応を窺っている。その様子に苦笑する。
「本当に気にしなくていいから」
「だって迷惑かけるってば!……こ、婚約なんて。こういうこと、幸せになるためにする約束だもん。だったら好きな人との方がいいってば。私なんかじゃなくて」
「僕は迷惑じゃないよ」
その一言に俯いていたナルトが顔をあげた。僕は姿勢を正す。
「いきなりだったからさすがに僕も驚いたけど。でもそれで……ナルトを守れるのだったら迷惑じゃない」
ナルトの蒼い瞳が僕をまっすぐ捉えている。
「そうだ。これ受け取ってくれる?」
ポーチから取り出した小さい箱をナルトの前に差し出す。
それを手にとって中身を確認したナルトは顔を真っ赤にして口をぱくぱくしてるから思わず笑ってしまった。
「形だけの婚約っていってもなにもしないってのもまずいだろうから」
彼女が気負わないように、と思って選んだそれは装飾も文字も入ってないただのリング。
「高かったってば?」
「高くもないけど安くもない、のかな?僕はそういう店に入るのは初めてでよくわからなくてね。適当に選んですぐ出ちゃったよ」
そう言うとナルトはその様子を想像したらしい。笑った。
今日、ここに入ってはじめて見せた笑みだった。
 

今回のナルトと僕の婚約の件は上層部で勝手に決めたこと。その条件を僕達は無理矢理のんだ形だ。
代わりにこのことはしばらく公にはしない、本当に内々の話ということにしてもらっている。
だからこのことを知るのはほんの一部に過ぎない。あの場にいた上層部といわれる人間と当事者である僕達だけだ。
だから僕達の班の皆にも友人達も知らないことだよ。
そう告げるとナルトはほ、と小さく息を吐いた。
「でもこのことを皆が知ったら・・・特に先輩なんかはかなり驚くだろうね」
当のカカシ先輩はというと今は里外任務。しばらくその姿を見ていない。
「……カカシ先生はきっといつもの調子でオメデトーとか言うってばよ」
冗談めかすナルトの左目から一滴の涙がこぼれてお汁粉の椀の中に落ちて。ナルトはというと「あれー?目にゴミが入ったってば!」とか言って瞼を擦る。
僕はそれを黙って見つめていた。
ただその涙が綺麗だ、と思った。
「いずれ時間が解決するから」
 

僕はその日がくるのを待っている。
あの夢の二人のようで、違う僕達。
だからこそ僕のためだけに笑うナルトを待っている。
そんな輝くばかりな笑顔を向けてくれる彼女のために彼女の花を用意しよう。
彼女のための花束を。

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