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2024年05月19日
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2016年10月10日
しあわせずっと



「さ!お出掛けしよっか!」
「……は?今日はいいってばよ?」」
いつものように窓から侵入したカカシが忍靴を脱がずにそう告げると、ナルトの返事を聞いたはずなのにそのままガシッとナルトを右腕に抱えて窓から外に出た。
「ちょ、カカシ先生っ?」
「いいからいいから」
カカシは実に楽しそうに応える。
今日カカシが来るとは思わなかったナルトは小さく息を吐く。
カカシが来たら見せようと思って用意していたものがあったのだけれど、まあ後でいいやと思いながら。



阿吽の門を抜けさらに外へ外へ。
「で、どこへ行くんだってば?」
カカシに抱えられたまま、ナルトはようやく疑問を口にした。
「いやー、最近寒くなってきたし」
「はあ?それは……そうだってばね」
確かに今年は急に寒くなった、とは思う。
まだ10月に入ったばかりなのに木々の色づくのが早く、ちょっと風の強い日の朝には玄関前にものすごい量の色とりどりの木の葉が寄せられていたりしてちょっとびっくりする。
道行く人たちも秋というよりも冬の装いといった趣で。
けれどナルトの質問の答えには全然なっていない。
「ナールト、もう鍋食べた?」
「まだだってばよ。ていうかひとりじゃ食べないってば」
「そうだよね、鍋ってひとりで食っても美味くないもんね。 かといって大勢で食べてもキライなヤツとかと同じ鍋ってのも興ざめだしー」
ぽんぽんと話が進む。
話をずらされたとナルトは思ったけれども、こういう時カカシはいくら聞いても理由を言わないだろうということをナルトは経験上よく知っている。
知っているのに聞いてしまうのはそれでも返事をしてくれるから。そう思うとなんだかカカシに甘えているようで恥ずかしくなる。
目に入る風景はすごい勢いで後ろに去っていく。
何にせよ、ひとつだけナルトは確かに分かることがある。
カカシはナルトが本気でイヤがるようなことはしないということ。それは絶対。
だからどこへ行くとも何をするとも分からなくてもナルトはカカシに付いて行くことを厭わないのだ。
けれどさすがに今回は意図が全く見えないとナルトは思う。
今日はただ少し寒くなっただけという日ではない。ナルトの誕生日だ。そして。
それ以外に何か忘れてることがあったってば?と上機嫌のカカシに抱えられたままのナルトはしばし考えに耽った。



辿り着いたのは以前忍務で来たことのある『ほむら亭』だった。
夕食にはまだ早い時間だったのだけれど、入口では若女将のチギが迎えてくれて。
そのまま躊躇いなく暖簾をくぐったカカシに抱えられたまま文句を言う間もなくナルトもそのまま入店してしまった。
案内された部屋でナルトと目が合ったチギはあの頃と変わらない表情で微笑むのでナルトも笑い返す。



「やっぱり鍋はさ、好きな人と食べたいな、ということで」
「それだけだってば?」
「それも理由ってやつだね」
部屋に着いて、温泉に入って、部屋食の豪華さ(山の宿なのになぜか蟹料理ずくしだったが)に驚きながらそれを食しながら理由を問いただすと上機嫌な様子なカカシが答えた。
今年の初鍋はナルトとって決めてたんだ、とも。
珍しくちょっと酒を嗜んでいるカカシを見てナルトはハッと思う。
「……カカシ先生?今日はお出かけって言ってたばよ?」
「勿論こうなったらお泊りコースです」
蟹足をしゃぶしゃぶしていたナルトは思わず手の動きを止めてカカシの顔を見る。
ナルトの予定があろうがなかろうが関係ない。これがカカシの平常運転なんだと知っているのに。
「なーんか、こうしてふたりで鍋!なんて幸せだなーとか思わなーい?ナルトは、嬉しくない?」
「あ、嬉しい、ってば。けど」
嬉しくないワケではない。
確かに寒くなった時にはナルトだってあったかいご飯のことを考えたりする。大抵は一楽のラーメンで済む。
もちろん今日の料理も美味しいし温泉も気持ちよかったってば、と告げて蟹足を頬張る。
それに今日は。
でも。
「家でも鍋できるってばよ。コンロも土鍋もあるし。こんな豪勢なのは無理だけど」
実はカカシが訪問した時にそれを見せようと思っていたのだ。なのに出掛けようと言ったのはカカシで。
「え、ウソ。知らない!聞いてない!いつの間にっ!」
「……安かったから買ったんだってば。……鍋の〆にラーメン食べられるってば」
「だって!鍋なんかしないっ!野菜なんてノーサンキューっ!って、ナルト言ったじゃないのーっ」
「だから!カカシ先生が来た時にしようと思って買っといたんだってば!」
カカシは頭も切れるし、ナルトのことをすごく想ってくれているのだけれど、ただひとつ、本当にただひとつだけナルトには不満がある。
ナルトだって、こんなにもカカシのことを想っているのだということをカカシは分かっていない。
ほんの些細なことでもカカシと時間を共有していきたい、ふたりで過ごしたい、といつも考えているということ。
だからひとりでは決して使わない卓上コンロだって買ってしまったんだってば、ということを。


「……明日の夜は、ナルトん家で白菜と豚肉とじゃがいもでミルフィーユ鍋にでもしようか。カンタンだし、お安いし」
ちょっとしょげていたナルトだったけれど、カカシの言葉に反応して目を輝かせる。
「先生。明日休みなの?」
「んー。ちょっと報告書書かないとダメだから予定はあるけど、夜は空けとく」
「じゃ用意しとくってば」
「お願いネ」
「幸せっぽいってば?」
「そうだね、幸せっぽーいね」
ふたりでゆっくりあったかい鍋を囲めばきっと幸せ。
今年も来年も。



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「おめでとう」言わずに勝手にお祝いする俺様。
作中のお宿『ほむら亭』は「いつだって君という存在に一喜一憂しているよ」に出てきたあの宿です。山のお宿の鍋はいいですよね。

2015/10/11~2016/10/10
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