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時々なんでだろうって考えるけど

2011年09月21日
時々なんでだろうって考えるけど


ナルトはカカシの部屋の前で主を待っていた。
遊びに来なさいね!ナルトだったらいつでもウェルカムだよーと言われていたが、当人がいまだ任務から戻っていない今はこうやって待つしかない。
カカシに伝えなければいけない事があったからだ。

「ナルト」
かなり遅くなってから、待ち人は現れた。
まさかこんな時間にここにいるとはさすがのカカシも予想がつかなかったらしい。その表情には驚きとそして喜びが滲んでいる。きっと尻尾があったら千切れんばかりに振っている。
「どうしたの。こんな時間に。あ、中入る?実は先生、ナルトがいつ来てもいいように牛乳とかココアとか用意してんのよー」
ウキウキといった様子で玄関ドアに鍵を差し込むカカシにナルトが声をかける。
「あのさぁ、俺ってば告白されたんだけど」
前置きもなくナルトがそう切り出すと、途端にカカシの顔が不機嫌に歪んだ。
そして「……サスケか?それとも奈良の子?いやもしやイルカ先生?まぁいいや。とりあえず思いついたメンツ全員〆てくるから中に入って待ってなさい」と言ってフェンスに片足をかけた。
「違うってばよー」「は?なにが違うって?まさか相手のこと庇ってんの?」カカシの利き手にはすでに苦無が握られている。
目付きも剣呑だ。
ナルトはため息をついた。カカシが考えているようなことではない。むしろその逆で。
「えーっとさ、……カカシ先生のことがスキだって。キレイなねーちゃんに言われた」
ぴた、と動きが止まりそしてカカシはゆっくりとナルトを見る。「俺のことを好きだって、ナルトに言ったの?」「うん」
ふむ、と呟いていてカカシが思考モードになった。
カカシのナルトに対する愛そしてそれに伴う発言や行動は里の忍びの、当然くのいちの面々も既知の事実。それなのにわざわざ告白してくる輩がいるものだろうか。いや、いないだろう。
カカシはゆっくりと苦無をしまう。
「もしかして里の人に言われた?」「うん」
なるほど、それはナルトも面食らって、そして困ったんだろうなとカカシは思った。

ナルトは思い出す。先日の任務の報酬が出たことだし本日の夕食は一楽でチャーシューダブルのちょい贅沢を、と浮き足立った自分を引き止めた人がいた。
話があるからといわれて連れ込まれたのは路地の片隅で告げられた言葉は「カカシさんが好きなの」。
そもそもなんでそういうことを自分に言うんだ、カカシ先生に直接言えばいいってばよとナルトの意見をその人に告げた。その返答が「どうしても言わずにいられなかったの」と。
そして歓声が上がる。「頑張ったね!」「大丈夫!ちゃんと想いは伝わるよ!」「ちょっとアンタっカカシさんにちゃんと伝えなさいよ!」「勝てる勝てる!」その人は一人ではなく、お友達の皆さんも一緒だったのだ。

ナルトがふと顔を上げるとカカシが何故か嬉しそうに目を綻ばせていた。
「なんだってばよ」なんとなくイライラしていたナルトはその感情のままに言葉を発する。カカシの目尻は下がる一方だ。
「……自分がモテるのが分かってそんなに嬉しいってば?」
「いや、ソレはどうでもいいよ」間髪入れず真顔で答えるカカシに、ナルトは告白をした女性のことを少しばかり思って哀れになる。本当にわずかだったが。
「ナルトって、こういう時はうるせーってばよ!オレってばカカシ先生となんにも関係ねーってばよ!って蹴散らかすと思ってたよ」
「……うん、まぁ、だってさ……」
自分に纏わる問題事は出来るだけ自分で解決したい。というかカカシに知られたくはないと思っていた。が、今回はそうではないから。複雑な心境のナルトに比べ、カカシはやたらご機嫌だ。
「ナルト、先生に打ち明けるかどうか悩んでくれたんだ?」
「……う、うんってば」
単に問題の要因がカカシだからカカシに打ち明けただけで別に信用してとかの話ではない。カカシは気付いてないのか何なのか、さらに目尻を下げる。口布越しでも笑みを浮かべているのがわかる。
ちょっと話を戻した方が良さそうだと、ナルトは密かに溜息を洩らす。
「……つーか、どうするつもりだってば?」
これから先のことを考えると、頭が痛かった。何故痛いのかはわからなかったが。
けれども、カカシはナルトの予想を遙かに超えて、呆れる程に非情だった。
「言わずにいられなかった『だけ』なのでしょ?だったらこの話は終わーり」きっぱり言い切られてしまう。
――うわー、先生酷ぇってばよ……。カカシはこと恋愛沙汰の話となると自分とナルトについて以外には興味がないようだ。それはもう完膚なく。
「さてと。ようこそナルト。先生特製ココアをご馳走しますよ」玄関のドアを開けて向かい入れる態勢のカカシに「……お邪魔しますってばよ」と応えるしかないナルト。
「ん?どうした?」「なんでもないってばよ!」 何だかんだ言いつつ、あまりにぶれないカカシに安堵している。そんな自分の矛盾が可笑しくてナルトは笑い声を上げた。

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元拍手文(2011/9/7~9/21)俺様設定。久々のアップで緊張しました。
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いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 6

2011年01月17日

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 6



夕食は宿の名物料理の数々(サスケとサクラがこの下準備を手伝ったとのこと)で、それを堪能したあとは割り当てられた部屋で眠って明日の帰還に備えるばかりとなった。
深夜と呼ばれるにふさわしい時間。
ナルトはすでに就寝モードのサクラを起こさないようにそっと部屋を抜け出し入浴セットを手に浴場に向かう。
室内設備の大浴場も気持ちよかったが、今目指すのは混浴露天風呂のほうだ。
話題だというそれに是非浸かってみたいという思いはあったのだがそこは男女混浴ということがネックになっていた。要は恥ずかしいというやつだ。
それと、もしかしたら自分がいることで嫌な思いをする人もいるかもしれない、という気後れ。モヤが呟いた言葉が一瞬よぎったがナルトはそれを振り払う。
(今だったらきっと誰もいないと思うってばー……)
脱衣場からそこを覗くと誰の気配も感じない。
(やった!)
小さくガッツポーズをしたナルトはすばやく着衣を脱ぎ捨て浴場に向かう。
人の手が入っているとはいえ自然を活かした造り。岩を組んでつくられたそこは豊富な透明な湯で満たされている。
十分にかけ湯をしてからゆっくりと湯に入る。それなりな広さの湯場の中央には石が備え付けられていてそこへ体を委ねながら湯に浸かっていく。手足を伸ばしながら見上げた空には満天の星。まさに露天。
自然とナルトから感嘆の声がもれた。
「きもち、いーってばよぉぉ」
「それはよかった」
声のする方向を見るとそこには岩に体を預けて半身浴モードのカカシがいた。
「え、え、えええー。いつの間にーっ?!」
「ナルトがここに来たときには先生はもういたけど?……気配、読めなかったの?」
「読めるわけねーってば」
「あらー?てっきり先生のことを追いかけてきたと思ったのにぃ。残念だなー。先生はね、これでもいちおー顔隠し系忍者なわけだからねぇ。人目を避けてたらこんな時間になっちゃったのよ」 
「……今、顔隠してないってばよ?」
「他に誰もいないしネー?それにさナルトと二人っきりなら隠す必要ないし」
ね?と小首を傾げて微笑むカカシをナルトは顔半分まで湯に浸かりぶくぶくさせながら上目づかいで見返す。
「でもよかったよ、ナルトの裸をその辺の男に見られるようなことになったらそいつのこと殺っちゃうしね。せっかくの温泉が血の海カラーになる」
「なっ……!!」
カカシという男は、自分がもっと幼い頃に出会いそして何故だか気に入られ今に至っているわけだが本当にタチが悪い、と思う。
そしてなんだかちっとも理解できないがまっすぐにぶつけてくる愛情表現に慣れてしまった自分も大概だ、とナルトは思う。
(だって先生、ウソは言わないし。きっとほんとに血の海になるし)
「ところでナルト。ここの湯ね、子宝の湯って言われてるんだって」
知ってたー?とざぶざぶと湯をかきわけて近づいてくるカカシの姿をあらためて確認したナルトはヒクっと喉を鳴らして、吠えた。
「ぎゃーっ!まえ、かくせってば!それよりもこっち来んな!」
距離を稼ごうとナルトも抵抗をするが所詮カカシのリーチ差には敵わない。
「ナールト♪」
右腕をガシッと掴まれたナルトはもう少しで叫び声をあげそうになった。だがそれよりも速くカカシはナルトの口を手で押さえる。そして脱衣所方面に鋭い視線を流したと思った瞬間、ナルトごと瞬身の術で中央の石の影に身を潜めた。
 

脱衣所の方向から二人の人間の気配と声がした。
「はぁ、今日も疲れたねぇ」
モヤとチギだ。
豪快にかけ湯をするモヤの隣でチギが桶に湯を溜めながら「今日はカカシさん達が来てくれて助かったね。皆働き者だし。ちょっと下忍時代のこと、思い出さなかった?」と言う。
「確かにね。まぁキツネの子がくるとは思わなかったけど」
ナルトのいる位置からは石によって死角になっているせいで彼女達の姿は確認できないがモヤの言葉に反応してびくついた。
いまだにナルトの口を押さえたままのカカシにもそれは伝わったのだろう。ちらりとナルトを見たのに何も言わない。
「キツネの子って、母さん……。ナルトさんは素直ないい子じゃない」
「お前の言いたいことはわかるよ。思ったよりもあの子はいい子だったさ。でもね、あの子の存在さえいなきゃ、私は忍びを続けてこれたはずさっ!」
感情そのままにモヤは桶を床に叩きつける。周辺は音を反響する壁に囲まれていないはずなのにそれは大きく響いた。
「またその話?もう何回目?」
チギの呆れたような、それでいて苦笑混じりな声がする。
モヤももしかして九尾事件でなにかしらの被害を受けたのかもしれない。だからだ。そう感じたナルトは湯面を見つめるばかりだった。相変わらずカカシは何も言わない。
湯に浸かったモヤとチギの会話は続いている。
「チギ。お前もこんなとこでくすぶっていたくないだろ。甲斐性見せてオトコ掴まえなさい。せっかく上忍が来てるというのに。お前も元くのいちならそれなりに手練手管で」
「はたけ上忍に?それは無理。あの人は生粋の忍びよ。母さんも知ってるでしょ。くのいちの技なんて相手が忍びだったら逆効果。お互い手の内がわかったうえで仕掛けても。……それに私は宿の仕事が好きだもの。ねぇ母さん?また堂々巡りよ」
「まぁはたけ上忍だったら上出来だけど、でもエリート過ぎるからねぇ。あんた、オトコもいないんだし、誰でもいいから婿にしてこの宿を継いでもらって」
「母さん……」
「そういえばなんていったっけ、お前の初恋の男。あいつは今も忍びやってるんだろ?次の搬入時は指名するからそのときは」
「いつまでも子供の頃の話を持ち出さないでっ。……あの人が里の忍びであることが私もうれしいんだから」
「チギ。私はあんたのことを思ってね?」
「……もういいから」
モヤとチギの間の会話のやりとりがずれているなぁとナルトは思った。でもオカアサンというのはこんな感じなのだろうか。そしてぼんやりと思う。チギには初恋の人がいる。それを揶揄されるナルトの脳裏にはチギとの会話のやりとりで思いつく人物が一人いて、そうだったらいいな、となんとなく嬉しく思う。
「ごめん母さん。ほんと、申し訳ないけど放っておいて。一方的だったしあの人も気づいてないし。それにあの人にも好みがあるだろうし。宿の跡継ぎとカワタもまったく考えていないわけじゃないから。でも今はこのままでいいでしょ」
湯面がちゃぷと揺れた。
「馬鹿だねアンタは。今相手を掴まえておかないでいつするんだい。大体アタシのときと事情が違うんだ。今は里にいないんだよ?……それこそあのキツネの子を見習いなさいよ。コドモなナリして媚び売るのに長けちゃって。はたけ上忍を誑かしているじゃない。マンセル組んでる男の子も、あの子だけ違う作業だってのを気にしてたし。ホント、末恐ろしいよ」
その時、ちゃぷちゃぷと揺れていたはずの湯面がざばぁっという音とともに乱れた。
ナルトの口を押さえていた手が無い。慌ててナルトが振り返るとカカシがいつの間にか仁王立ちしていた。よく見ると口元も腰まわりもタオルで覆い隠している。
そのカカシがざぶざぶと湯をかきわけて歩む。
モヤもチギも、もちろんナルトも唖然としてカカシの行動を見つめた。
「モヤさん」
「は、はいっ」
「あの子」
カカシが親指で後方を示す先にはナルトがいた。それをモヤが視認して青ざめた。
「あ、あの、」
「あの子にはちゃーんとうずまきナルトって名前があんのよ?知ってると思っていたんだけど。キツネの子なんて言い方、気に食わないなぁ。訂正してくれる?」
「は、はいっ」
「あとさ、マンセル組んでいる男子がって、それモヤさんの勘違いね?ありないよね?」
ぶるぶると震えながらも顔を縦に振るモヤにカカシはのほほんとした口調のまま続ける。
「それとさー、この子は誰かに媚売ったことなんて無ーいよ?常にまっすぐ相手と向き合うの。わかってるでしょ?それが眩しいから、こっちがやましい思いがあるから見返せないんだよ。なんで認めないの?認めたら負けだと思ってーる?」
「……っ」
「俺がこの子が好きで好きでたまらんのよ?俺のお嫁さんだし?だからさぁ、俺がお嫁さん愛ゆえに怒るのはありだよねー」
なにやら不穏なことを言い出したカカシにナルトはひくっとノドを鳴らす。
この展開はヤバイってばよ。カカシに関わるようになってからいつの間にか身についてしまった予兆にナルトは青冷めた。
その証拠にカカシが猛スピードで印を組み始めている。
「せ、先生……?!」
「カカシさん?!」
「土遁!土流壁・改!」
その瞬間カカシがニヤリと笑った、とナルトは思った。実際はその口元はタオルに覆われているというのに表情が見えたのだ。
土ぼこりが朦々としたあとに現れたそれは。
「うん。いい仕事したーね」
「せ、せせせ」
「なに?」
「カカシせんせー!」
そこに現れたのは……。
「ゴージャスになったねぇ」
と満足気に頷くカカシのえらそうに嘯く姿を、ナルトは温泉に入っているというのになぜか冷や汗を垂らしながら見返した。チギは困った顔で笑っている。
真っ青な顔で固まっていたモヤはというと我にかえった途端に現状にまた固まる。 
その騒ぎに気がついたムナギがその場に突入してそれが目に入った。
それは。
だばだばと口から温泉水を吐き出している犬をモチーフにした像。その造形はなんとなくカカシの忍犬の中でいえばブルに似ている、とナルトは思った。それは風情あると評される宿にはそぐわないシロモノだった。
 

その任務から二ヶ月ほどたった。
ほむら亭に新たな名物が出来てそれが評判になり今では予約客で半年分の宿泊枠が埋まっている、ということをイルカが教えてくれた。
「ナルト!サスケ!サクラ!お前らあそこに任務で泊まったことあるんだよなっ。羨ましいぞ!」
無類の温泉好きのイルカにそう言われてサスケとサクラは視線を彷徨わせナルトはあははーと感情の篭らない笑い声を上げる。
カカシはといえば。
「アレで稼いでいるの?バックマージンもらわないといけないねぇ」
もちろんその金は俺とナルトの幸せ資金~♪なんて嘯いていて、そんなカカシの様子をナルトは呆れるながらも(あー、慣れって怖いってば)と思うのであった。
 

どっとはらい。
 

注)子宝の湯と呼ばれる温泉に入ったからといって確実に妊娠できるという伝えはありません。が、冷えや月経不順といった婦人科系症状が緩和される泉質が多く、体を温めて冷えを改善することで妊娠に近づくケースがあると考えられているそうです。

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 5

2010年12月31日

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 5



「これを全部だってば?」
「ああ。やってもらえるかい?」
モヤが指した先には木材。木を伐採したそれが大量に横たわっている。これらを手ごろな大きさにして薪にする。熱材として利用するのだ。
ほら、とモヤから渡された薪割り斧を手に取ったナルトが任せておけってば!と高らかに宣言したのだがモヤはそれを見て表情を固くし、頼んだよと告げてその場を離れる。
去り際に「なんであのキツネの子がここに」と呟いて。
それは本当に小さな呟きだったがナルトの耳にはしっかりと聞こえたのだ。
しばしの間、立ち尽くしていたナルトだったが「よーしっやるってばよ!」と気合の一声とともに斧を手にした。
 

薪割りというのは一連の流れさえつかめればあとは単純作業である。
コン、コン、とリズミカルに薪を作り上げていたナルトはふと周辺が暗くなっていることに気がついた。見渡すともうすっかり日が暮れていた。
額に浮かんだ汗を拭おうとしたのだけれども斧の握った形に指が固まってうまく動かせないことにナルトは気がついた。
ゆっくりと手の平を開くとそこにはマメが出来ていた。
どんな任務も夢中になるのはナルトの美点のひとつだ、とは以前カカシがナルトを評した言葉である。ただし夢中になりすぎて周囲の状況を見れないのが難だとも。
「あらー。見事なマメだこと」
いつの間にかそこにいたのかカカシがナルトのそばにかがみこんでいた。
カカシがナルトの両手をとり、その手のひらにふーふーと息をはきかける。
「先生?なにしてるってば?」
「んー?気休めってやつ?」
なんとなーくだけどこうされると痛みが和らぐ気がしない?とカカシが目元に柔らかい表情を浮かべて告げるとナルトは徐々に頬を赤く染めていく。
「オ、オレってばこんなん、全然平気だってば!それよりもさ先生!オレってば一人で頑張ったってば!見て、この薪の数!」
「……一人で?サスケとサクラは一緒じゃないの?」
「う、うん」
カカシの声が一段低くなった。
「そういえばいないねぇ」
不穏な気配を纏って周辺を見回すカカシに、ナルトは慌てて「オレはここを任されたけど!サスケやサクラちゃんは別なとこで仕事してると思うってば」と今はこの場にいない二人のフォローを試みる。
「ふーん?」
カカシの気をもろに食らった故か、木々でその身を安らげていたはずの鳥達がさざめく。それは周辺の暗さも相まって不気味は演出となり、ナルトは少し震えた。
「それに薪割りってけっこういい修行になったってばよ?スタミナついたってば!」
「……ナルトがそういうんなら別にいーけど」
ようやくナルトに向き直ったカカシにナルトは安堵する。
「あ、ナルトー!と、カカシ先生。ここにいたんですね」
建物の影からサクラが顔を出した。その後方にはチギが立っていた。
「チギさんがねー、ナルトと私に用があるんですって」
 

ナルトとサクラが連れてこられた部屋には大八車で運んだ荷物が収められていた。それらはどうやら客用の湯帷子で、それは主に女性用なのだろうなと思わせるデザインばかりだった。
「キレイだってば……」
室内に広げられた衣や反物。そこに描かれた花や柄を見てナルトがほぅと呟く。
「これもステキ!可愛いっ」とサクラも楽しげに見ている。
「うちは泊まり客がほとんどなんだけどね、そういう方々にちょっとしたサービスというのを私なりに考えてみたの」
チギが微笑む。
二人にも着てもらおうと思うんだけど。私の見立てでもいい?
チギが言うとサクラとナルトは「えっ?」と顔を見合わせたが笑って頷いた。
藍で染め抜いた生地を見て「これってばイルカ先生に似合いそうだってば?」とナルトが言うとサクラもそうねーと同意する。
「カカシ先生にだって似合うと思うけど?」とサクラがにまにましながら言うと「カカシ先生はこっちのほうだってば!」と別な生地を指差す。
それは薄肌色地で、粋な矢絣の連続模様が特徴的だった。
「そうね。あっちは海野君向きかも、こういうのは確かにカカシさんが似合いそう」とチギは微笑む。
チギの口から出たある人物への呼び方になにかしらのひっかかりを感じたナルトは顔を上げる。
「チギねーちゃん、イルカ先生のこと知っているってば?」
するとチギはすこし微妙な表情を浮かべる。
「実は私海野君と同期でね」
「え、チギさんもアカデミー出身なんですか?」
「そうなの、一応これでも元忍びなの。下忍止まりだったけど」
じゃ私たちの先輩なんですね!と喜ぶサクラにチギは小さく頷いた。
「あの頃の海野君はクラスのムードメーカーでね。いつも皆を盛り上げてくれていたわ。いろいろと励ましてもらったこともあって……いい思い出。アカデミーを卒業してからは任務で一緒になることもなくて……それからしばらくして私は引退しちゃってここに来たからもう何年も会ってないんだけど」
「イルカ先生ってば昔っからそうだったんだってばね!オレにもイルカ先生が笑って励ましてくれたりするんだけどさ嬉しくなって頑張るぞー!って気になるってば」
「ね。海野君の笑顔っていいわよね」
そうやって笑い合うナルトとチギのほのぼのとした雰囲気をサクラも楽しんでいたのだがふと何事かの気配を感じる。
襖の隙間から己の担当上忍が「イルカめぇぇ……」と呟きながら睨みこんでいるのが見えた。
サクラは声にならない悲鳴をあげた。

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 4

2010年12月01日
いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 4


再び大八車のもう無理ですっ重いですっ!という叫びを聞きながら目的地へ向けて後方から手伝う。
休憩をとったとはいえ、この構成メンバーの中では体力のないサクラが先に弱音を吐く。まだけっこう距離があるんですか?と問いに荷物を運搬しながらだからまぁ夕方には着くんじゃないかなぁとカカシは答える。
ナルトは遠くを見る。道の先、視界に入る緑はさまざまな濃さを見せている。今回の任務は国境を越えてないとはいえ門の外。育った場所で見る色とは全然違うってば、とナルトは思った。それぞれの色をなんと名づければいいかナルトは知らない。ただ違うということはわかる。
そんなナルトを目の端で捉えたカカシは口布の中で笑みをつくる。
山道を下り始めていくらか経つと風にのって漂ってくる匂いにサスケが気がついて鼻を動かした。
その動きに気がついたナルトも同じような行動をとる。わずかであるが空気に混じってきたその独特な匂いの主張に気がついたナルトは思わず声を上げた。
「先生っ!カカシ先生っ!温泉の匂いがするってば!」
「ん?わかったー?」
ほら、あれが見える?とカカシが顎で指し示した方向には白い蒸気が上がっているのが見えた。
「あそこまで行くからーね」
おそらくそれは今進んでいる山道の先にある。そう感じたコドモ達の足取りは心なしか軽くなった。
目的地が示されると途端に気力が復活するのはなぜだろう。あと少し、という気になるからだろうか。
それからしばらく歩みを進めていくとますます匂いが強くなる。わかりやすいほどの硫黄臭だ。
板塀で囲まれた敷地が見えた。敷地に沿って流れる川にかけられた橋を渡る。
どうやら陽が沈む前に目的の旅館に到達した、らしい。というのも周辺には他に目立った建築物がない上にカカシがその建物の門と思しき場所の前で足を止めたからだ。
木の葉の里にも温泉街があるが、それとは色調が違う。
入り口には日が暮れるとそれが燈されるのだろうかがり火の用意。樹木が点在しそれはおそらく季節ごとに周辺を彩るのだろう。敷地内にはいくつかの建物が点在しそのいくつかからは湯気が浮かんでいる。確かに風情ある温泉宿、とイズモが評したのもわかる。
ナルトやサクラが周囲を興味深く見回している(サスケもそれなりに)と、敷地内の建物の中で一番大きいそれ(そこが宿泊棟だと後に判明した)から三人ほど出てきてこちらに向かってきた。
赤く染め上げた作務衣を身に纏ったその者達の中から一歩前へ出た初老の男が「おつかれさまです、まさかはたけ上忍が受けてくださるとは思いませんでした」と嬉しそうな顔をする。残りの二名もそれに倣って礼をする。
「いやーこちらとしても都合がよかったもんで。はっはっは」とカカシが告げた言葉になにやら含む声音があった気がしてサスケとサクラが都合とは何がだという目つきで担当上忍を見、ナルトはひくっとしゃくりあげる。
これが御注文の品です。と荷台部分を指し示したカカシに謝辞を述べる男。
「あ、お前ら。こちらはこのほむら亭を任されている主人のムナギさん。それと女将のモヤさんとその娘さんのチギさん、ね」
紹介されて顔をあげた面々はにこりとする。
ついで七班のメンバーをカカシが紹介する。
「私が任されている下忍の子らです。うちはサスケと春野サクラ、そしてうずまきナルトです」
紹介されてサスケとサクラが会釈をする。
「ほー。カカシさんが担当となれば優秀な子たちでしょうなぁ」
微笑んだムナギとモヤの視線を受けた時に一瞬批難めいた強い感情が浮かんだ気がしたナルトはそれから逃れるように慌てて頭を下げた。
だからその行動をカカシがちらりと視線を寄こしたことにナルトは気がついていない。
「で、これから我々はなにをすればいいんでしょう?」
カカシの発言にコドモ達はぎょっとする。
単なるお使い任務であれば行きは多少の時間がかかると予想はつくが帰りは忍びの足だ。それが泊まりを要するといわれたわけでこれから与えられる雑務が本番なのかと各々がそれぞれの表情で悟った顔をした。

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 3

2010年11月14日

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 3



車軸が積載量オーバーです!と訴えんばかりにぎーぎーと不快な音を立てるのをナルトは聞きながら大八車の後方から押して進行を手伝う。サスケもサクラも同じように押す。
道中は緩やかではあるが山道なのでそれなりに力の要る任務ではある。積載量の割にはすいすい進むのはカカシが引いているせいだろう。
だからいつもよりも楽なのだ。体力的には。
通常与えられる任務がたとえDランクといえども、そしてその内容がどんなに過酷であろうが指示はするけれどもよっぽどのことが無い限り手は貸さない担当上忍のカカシが率先して大八車を押している。いったいこれはどういったことなのか。
そして意識をそちらに向けるとなんのメロディーかわからないが鼻歌が耳に入ってくる。
常では考えられない状況に子供たちはそれぞれ不安に押しつぶされそうになっている。
特にサクラ。ああ、きっとこれはナルト関連なのだなーと思い至ったサクラはちらっと視線をナルトに向ける。と、それを受けた本人は真っ青な顔をしてぶんぶんと顔を横に振る。
(ナルトーっこれもあんたのせい?そうなんでしょっ!)
(ち、違うってサクラちゃーんっ!オレもホントわけ分かんないだってばよー!)
読唇術を使わなくても、それこそ写輪眼を行使しなくても読み取れるであろう会話。
こんな不安材料を抱えたままではいけない。見ろ、サクラもナルトも青い顔をしているじゃないか。それは任務に支障をきたす、と考えるのがうちはの姓を冠する子であった(ちなみに彼も常に無い状況に具合が悪くなっていたのだが、そこはプライドでもって隠し通していた)
いつもカカシはおかしいが今日は特に、というのが彼らの共通見解なのは間違いない。しかし誰も何も言わない。
サクラは優等生故に基本的にカカシには従うし、自分にはなにかとぎゃーぎゃー突っかかってきたりイルカ先生には無邪気に寄っていくナルトが、ことカカシに関しては引き気味だ。
だから彼は言ってやったのだ。
こいつらを守るのは俺だ!そんな心意気とともに。
「カカシっ!」
「ん?なに?小便か?」
「違う!」
「じゃ、ナニよ」
クダラナイことで俺の足を止めたのだとしたらお前を頭から喰ってやる、そんな物騒なオーラを醸し出しているカカシにサスケは怯んでしまった。
「……そろそろ昼だ」
そう呟くのが精一杯だった。

「これでCっていうのはさすがにおかしくないか」
サスケが昼休憩でそんな風に疑問をぶつけるのをナルトは手にもったおにぎりを今にもかぶりつこうとしたポーズのまま固まって聞いていた。
サスケの主張はこうだ。
護衛任務でもなく、これは単なるお使い任務。本来ならDで十分なはず。
「言われてみればそうよね。里外に出るとか、里内でも内容次第ではCにランクが上がるのも考えられるんだけど」
サクラも同意する。
ナルトはというと昨日のカカシとのやりとりを思い返していた。
頑張って任務をもぎ取ってきた、と言っていたがランクの高い任務をとは言っていなかったような気がする。カカシはサクラやサスケがどう思っているかはなんとなく予想がつくくらいわけのわからない人間の代表格ではあるが任務に関しては嘘はつかない。
「あのさあのさ、Cだと思ったのってオレ達が勝手にそう思い込んでたんじゃないってば?カカシ先生ってばそういうこと言ってなかった気がする」
ナルトの言葉にサクラとサスケは「あ」という顔をし、そしてがっくりと項垂れた。
「そろそろ出発したいだけど、お前ら飯はもう済んだか?」
カカシが現れてそう告げる。
休憩してからまだ20分も経っていない。いつもだったら昼食に割り当てる時間は1時間、少なくても30分はとるはずなのにもう出発するのか。慌てて手持ちの昼飯を頬張る三人をカカシはつまらなそうに眺めていたのだが。
「ナルト」
はむり、とおにぎりを口にしたナルトにカカシはちょいちょいと手招きをする。
「……なんだってば?カカシ先生」
「先生ね、弁当忘れちゃったの」
「はぁっ?準備あるからって帰ったクセに?その準備に弁当の用意は入ってなかったってば?それとも家に忘れて来たってば?」
「まぁまぁ。んでさ、その食いかけ、ちょうだい?」
食いかけ、といわれたのはナルトが手に持ったおにぎりあと一口分。
「……先生、これで足りるってば?」
不安気なナルトにカカシは唯一曝している右目でにっこりと表情を作る。
「モチロン」
口布をさっと下ろして一口でおにぎりを口にしてまた元通りにしたカカシは口をもごもごさせたまま「ごちそうさまー。おにぎりはやっぱりシンプルな塩にぎりがいいねー。米の味が引き立つしー。さすがナルト、塩加減も絶品だーこれはもう愛だねぇ」と言う。
それを聞いてナルトは照れてなのか顔を赤くし、サスケは己の手のおにぎり(具はおかか)を無言で握りつぶしたあとハッとして残りを平らげ、サクラはハイハイ、惚気ってやつですねーと母親に作ってもらった弁当のおかずで最後に残しておいた玉子焼きを口に放り込んだ。

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