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LOV5
LOV5
カカシが苦無についた血を一振りで払うとそれをホルダーに仕舞った。
男は背を塀に預けたままずり下がっていった。声をあげていない。
先に咽喉をつぶしたんだ、とナルトは気づいた。
カカシがゆっくりと振り返ってナルトを見た。
「ナルト」
それはとても嬉しそうな声だった。
蹲っていたナルトを立たせたカカシはしゃがみこんで怪我の程度を調べた。
「骨は折れてない……と。でも痣になっているだろうねー。家に帰ったらちゃんと治療しようね」
少し目を眇めながらそんなことを言う。
ナルトがあくあくと口を動かしてなにかを言おうとしていることに気がついたカカシは「ん?」と首を傾ける。
「カカシ先生……あ、あの人達……」
カカシは無言でナルトの服についた土埃を払っている。
「先生!」
大きい声が出たせいだろうか。カカシはようやく手を止めた。
「“人”なんていないよ?」
ナルトはおかしなことを言うなぁ。そう言ってカカシは笑った。
でもナルトには動かなくなった二人の男の姿が見える。
忙しなくカカシとカカシの後方に視線を動かす様子を黙って見つめていたカカシは至極冷静な声で答えた。
「ナルトが気にする必要はないよ?あれはナルトの傍にはいらないからいいの」
「え?」
カカシとナルトの視線が絡み合う。
視線を逸らすことなくカカシは再び繰り返す。
「いらないからいい」
息を飲むナルトにカカシがさらに言葉を紡ぐ。
「お前が笑って過ごすためなら俺はなんだって出来るよ」
ナルトはベッドの中で瞬きを繰り返した。
あの言葉通りにその後もカカシはナルトを守ってきた。
その対象は九尾の所業を転嫁する里の男達であったり、カカシの心を己で占めたいと欲を出して行過ぎた行動をとる女達であったり。
自分のために躊躇いもなく力を振るう上忍師。
だけどどういう理由であってもそんなことをナルトが望むわけではなく、暴力を受けたとしてもカカシには知られないようにしてきた。
もし知られたとしても……必死になって止めるとカカシはやめてくれるようにはなった。
窓の外には白く輝く月。
それを視界に入れながらゆっくりと瞼を閉じる。
「……先生」
まるでその月がカカシだというように呼びかける。
「オレってば先生がオレの事見てくれるのはすごい嬉しいの。でも……オレのためにあんなことしてほしくない」
大丈夫。
怪我だったら九尾のおかげで治るから。
ココロだって。オレのことをまっすぐに見てくれる人も増えたよ。
だから。
「先生の前でもちゃんと笑いたいの……」
最後は消え入るような声になった
月明かりに照らされた室内は少女の小さな寝息で占められている。
その部屋の窓を静かに見つめる姿があった。
「ごめんね」
小さくつぶやいたその者の髪は月明かりを受けて白く輝いていた。
2009/02/28初出