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2024年05月19日
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思い悩むのは真剣に考えてるから

2009年05月07日

思い悩むのは真剣に考えてるから
 


カカシが馴染みの店のカウンターで一人呑んでいると隣の席に割り込んだ客が自分の杯を取り上げてそれを飲み干してしまった。
「けっこういい酒飲んでるじゃねぇか」
その声に多少酔いが回った意識を向ける。
そこにいたのは勝手に返杯モードに突入している奈良シカクだった。
小さく息を吐いてその杯を受け取る。
「すいません」
「珍しいねぇ。お前さんがそんなになってるなんてよ」
「……たまには俺もこういう日がありますよ」
「呑まなきゃやってられないってか?」
カカシの眉間に皺が寄る。
「そんなにナルトちゃんがうちに通いつめるのが気に食わないかぁ?」
いかにも面白がっているといった声音を聞きながらカカシは杯を空けた。
 

ナルトは最近将棋に夢中なのだ。
いや。
その表現は正しくないかもしれない。
それをシカマルが嗜んでいるというのを知ってから、なのだ。
『はじめての将棋』なんて本を読んでいるなと思っていたら、いきなり上忍待機所に「たのもーッ!」と言って突入してアスマに指南を受けたり(ちなみにカカシはナルトから「先生は将棋強いってば?」と以前聞かれ「興味もったことないなぁ」と返答してしまったため、この分野では除外されている)
まぁとにかくそういうことで時間の都合が合えば奈良家に通っているようだった。
それだけだったら別に……奈良の子は例の口癖を言いつつもナルトにかまってくれるいい子だ。
もちろんその家族もあの子に偏見をもたない。
そう。
ナルトがいろんな人と接点をもつのはいいことだし、そう思っていたのだ。
だから自分の心理の問題なのだ。
今日。
任務終了後もナルトと一緒に居たい気分だった。
だから必殺キーワード『一楽』を唱えたのに。
「シカに勝つまではー!」って走り去っていくあの子を呆然と見送ってしまった。
シカとか親しげな言い方、いつの間に?とか考えた自分にへこむ。
で、その結果今ここにいるのだ。
杯を空けてはため息の繰り返し。
ああ、そういえば俺の横で追加注文している奈良の当主も最近ナルトの周りで見かける親らと変わらないんだ。
酒に呑まれたのかもしれないぐだぐだ思考に涙が出てきそうになる。
泣き上戸なわけでもないのに。
 

「カカシ君さー」
「はい?」
「あいかわらずバカだな」
「は?!」
思わず見返した相手の表情は。
「俺ら大人はさ、里の意志についていかないといかない。それで次の世代を担う子供達の幸せを願うために踏ん張るわけよ。カカシ君もそうだろう?」
「はい」
「そこは俺が改めて言わなくてもわかっているだろうしな。でもな?」
「でも?」
「俺達からすればカカシ君も幸せになってほしい子供の一人だからな」
「……なんで」
「ん?だからバカだと言ったんだ」
やっぱり面白がっている大人の余裕を見せる笑顔だった。
これが俺がその日最後に見た記憶。
 

次の日。
 

「カカシ先生さー。大人ってお付き合いはいろいろとあると思うんだけど呑み過ぎってのはよくないってば!」
「うん……ゴメンね」
なぜかナルトの家で、家主のベッドを占拠している自分がいた。でもなぜここに?
「シカマルの父ちゃんがいきなり先生を置いていったんだけど……覚えてない?」
「うん」
「しょうがないオトナだってばね?」
ニシシと笑いながら差し出されたものは梅がゆ、というよりも重湯状態な。
でも正直今の胃の調子にはありがたい。
「イタダキマス」
「ハイってば」
一さじ掬って食べる。やさしい味だった。
涙が出た。
「せ、先生?!」
「んーごめんねー。センセイ、美味しくって思わず感動しちゃって」
本当に俺はしょうがないオトナだ。
せっかくのおかゆをしょっぱくしてしまった。
そんな俺の様子を見てナルトは黙ってティッシュ箱を差し出した。
 


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2009/04/28初出

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