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願いは一つ。幸せを。
願いは一つ。幸せを。
気まずい。
カカシが茶を啜ると意外に大きな音が出てしまったので思わず眉間に皺がよる。
なんでこんなことになったんだっけ?
「お前はそんなところで何をしているの」
「……カカシ先生」
白壁の塀によじ登っている最中の姿勢のまま固まっているのはナルトだった。
「お前ね、いちおー忍者なんだからもう少しカッコよく出来ない?」
「よ、余計なお世話だってば」
恥ずかしいのかナルトの顔は真っ赤だ。
「だいたいなんで先生がココにいるんだってば!」
「ん?俺?」
習慣というのは恐ろしいもので気がつくと金色の髪の子の気配を探っていた。
しかし感じた場所はちょっと今までと違う地点だったので思わず足が向いたのだ。
「……ま、いろいろあってだ」
「先生ってばうさんくさい」
あまりといえばあまりな部下からの評価に言葉が詰まる。
「……ナルト。さっきの質問の答えは?」
一瞬ぽかんとしたあと、ああ!といったような表情になる。
くるくる変わって面白いなぁ、とカカシは思う。こんなにわかりやすくていいのだろうかとも思うが。
「あのさあのさ、この向こうからさ。ヒナタとネジの声が聞こえたんだってば」
「そりゃまぁありえるね。ここは日向の本家だからねぇ」
「そうなんだってば?」
「それが理由で先程から騒いでいるのかね。うずまきさんとはたけ上忍」
白壁の向こうから聞こえた声は日向家当主、日向ヒアシのものだった。
招かれて敷地内に入った。どうやらヒナタとネジはヒアシの指導の下、組み手を行っていたらしい。
「ナルトちゃん」
「やはりナルトか。いったい誰が騒いでいるのかと思っていたところだ」
「その言い方はひどいってば」
ナルトが照れ隠しに大きな声を出して抗議すると微笑む2人。その視線は柔らかい。
そういえばヒナタもネジもナルトに過分に影響されたんだな、と思い出す。
鍛錬の手を休めてヒナタが奥へ引っ込む。
ヒアシに促されて縁側に座るとお盆にお茶をのせたヒナタが戻ってきた。
「どうぞ」
「あ、オカマイナク」
軽く会釈をしてヒナタはネジとナルトのもとに戻る。
「そういえばはたけ上忍はあの子らの同期の親に振り回されているそうだが?」
「いや……そんなんじゃないんですが」
「そうかね?」
あの子の周辺で起こっている騒動は里の名家当主の耳にも入っているらしい。
小さくため息をつくとヒアシの視線を感じる。
「……あの子の理解者が増えるのはいいことだと思ってるんです。これでも」
自分はただの監視役だから。心の中でそれを繰り返す。
その度に少し胸がちくんとするけどもそれは何故かなんてわからない。
「君がその立場を貫くというならそれはそれでかまわないと私は思うが」
読み取りにくい表情と声音で淡々と語るヒアシの言葉に耳を傾ける。
「例えばだが。ヒナタとうずまきさんは同性だから残念だと思う。とはいえネジが望むなら力を貸してやってもいい」
それが何を指しているのか。カカシはぎょっとする。
「貴方までそんなことを言うんですか……」
「私とて人の親だから」
子供達の将来と幸せに繋がるなら。そう言ってヒアシがふふっと笑う。
「でも君だってうずまきさんの幸せを願うだろう?」
妙なプレッシャーを感じるのは何故だろう。カカシは困惑した表情を浮かべた。
そして前述のシーンになるのだが。
「父上が笑っていらっしゃる……」
「珍しいな」
「え、笑ってるってば?」
組み手を止めて見やると縁側に座る二人が見える。
「カカシ先生とヒナタの父ちゃんって仲良いんだってば?」
「う、ううん。知らない。カカシ先生がここに来ることなんてないし……」
戸惑ったようにヒナタが答える。
「そうだ。だからナルトよりもよっぽど珍しいんだ」
ナルトの担当上忍というくらいでしか接点がないのだ。ヒナタもネジも。
しかしのんきな会話を繰り広げる子供達がもっとよく観察すればカカシがその猫背をさらに丸めて小さくなっているのがわかったはず。
「ふーん?」
先生、いろいろって言ってたし、大人のジジョウってやつだってば?
話題の中心になっている本人はもっとのんきだった。
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2009/04/25初出