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2024年05月19日
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君を必要だと、その一言を

2009年05月01日

君を必要だと、その一言を
 


あの子が部屋にいない。
そうはいってもナルトだっていっぱしの忍者だとわかっている。
そうそう危険な目に合うことはなくなっている。
ただ……いつもいる場所にいないと何かあったのかと思うくらいには心配しているのだ。
そう自分に言い聞かしてナルトの気配を探る。
 

「先生」
ナルトは里の中心から離れた山の中。
古木に背を預けて立っていた。
すっかり葉桜となったそれは周辺に樹木がないせいもあって風格が漂っている。
「こんな所にいたのか・・。それにしても立派な木だね」
「この木ね。じーちゃんの木」
「三代目の?」
「うん。ずっと前にね、じーちゃんがここに連れてくれたんだってば。
"ワシの親がの、生まれた記念に植えたそうじゃ”って教えてくれた。
あの時は綺麗に花が咲いてて。そのあともオレね、一人で毎年見に来たんだってば!どの年も綺麗だった……」
風が出てきたのか葉が煽られてざわめく。
ナルトは目蓋を閉じている。
きっと三代目との思い出に浸るためにここに来たのだろう。
なぜなら。
「……お前、明日にも自来也様と共に修行の旅に出るんでしょ。
いつからここにいたの。……すっかり冷えてるじゃない。風邪をひくよ?」
彼女の頬に手を這わせてゆっくりと撫でる。
その冷たさに思わず眉根が寄った。
「それでわざわざ探しに来てくれたんだ……監視役も大変だってばね?」
「!」
いつからそのコトを知っていたのか。
普段のこの子は本当にまっすぐで、俺を慕ってくれて……そんなことを微塵も匂わせてなかったのだ。
ナルトは瞳を伏せたままくすくす笑っている。
「カカシ先生。オレってば先生の強さに憧れた。先生みたいなすげー強い忍者に今もなりたい」
「……なれるよ。ナルトだったら。それにいずれ火影になるんでしょ」
「その為の修行の旅だもん」
「……うん」
「それでも……オレってば本当は先生の下で強くなりたかった」
狐のガキは忍者にするべきじゃない、だってばね?
皆がそう言ってるのを聞いたってば、とナルトが目蓋を伏せたまま密やかに笑った。
「カカシ先生はオレの監視役」
それ以上でもそれ以下でもない、とでもいうようにナルトは囁く。
「違うんだナルト。俺は」
確かにそれは俺の役目だった。でもそんなことは忘れていた。
俺は。
咄嗟にナルトの右手を取り、強く握り締めた。
それに応えるようにゆっくりと顔を上げるナルト。
「この娘はお前の手を決して取りはしない。里の犬であるお前の手はな……当然だろう?写輪眼のカカシよ」
俺を見つめるその瞳の色は……深紅。
 

目が覚めると俺はベッドの上だった。
「……え?」
周囲を見渡す。どう見ても俺の部屋だ。
そして窓から差し込む日差しの強さは、すでにナルトは木の葉の里を発っている時間だと告げている。
「なんで?どうして?……ナルトっ!」
聞こえるはずのない葉音が聞こえる。
違うんだナルト。
俺は。
俺は。



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2009/04/21初出

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