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2024年05月19日
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空の下、森の中、視線の先

2009年05月07日

空の下、森の中、視線の先



ひらっと。
一人で修行をしていたナルトの視界に一匹の蝶。
もちろんその蝶は密かにナルトに気づかれない位置で「監視」しているカカシも気がついた。
羽根の裏面に黄色と黒のマダラ模様、そして表面は瑠璃色をした美しい蝶、キマダラルリツバメ。
松林をテリトリーとするそれはこの演習場ならば見かけても珍しいことではないかもしれないけれども、あれはあのように優雅に飛ぶ行動はしない(どちらかといえばテリトリーを守る為にビュンビュン飛ぶ)
訝しげにそれを観察しているとその蝶はナルトが右手に持つ苦無の先に止まった。
ナルトはというと驚いた表情を見せたまま、でもその色に惹かれたのかじっと見ている。
幾秒かのあと、蝶が苦無から離れる。
でもナルトからつかず離れずな位置に留まっている。
苦無をホルダーにしまったナルトはその手をそっと蝶に向けると、ついと距離があく。
ナルトが一歩踏み出す。
蝶が逃れる。
ナルトがまた一歩。
時折蝶はナルトのそばを舞ったり離れたりする。
それを追いかけて自分よりも背の高い草むらにつっこんでしまったナルトにカカシは苦笑するが、実は笑っている場合ではない。
どうもあの蝶は明確にナルトをどこかに誘導しようとしているのだ。
カカシは己の気配を殺したままナルトを追いかけた。
 

「シノ!シノってば。そのままじっとしてて」
「……ナルト」
ナルトの先には油女家の親子が立っていて、そして追いかけていた蝶は今シノの胸元に止まっている。
「そのまま……そのまま」
「……ナ」
「しーっ」
ナルトに制されたせいかシノが息を止めたのがわかった。ナルトの手がシノの方に伸ばされる。
「よーし……捕まえた!……って、あー!」
「!」
瞬間、それはひらりとかわしてそのまま上空を飛び、青い空に溶けるかのように視認できなくなった。
「あーあ、残念。ところでシノはここで何してるってば?」
「……虫の……採取だ」
シノが珍しく歯切れが悪く呟くような話し方をしている。
それもそうか、とカカシは思う。
蝶を捕らえようとしたナルトはシノに抱きつく格好になった。
ナルトは同期の下忍達に比べて体が小さい方だ。そしてシノはというと背が高い。
だからその体勢だと自然とナルトはシノを見上げて会話をすることとなる。
……体が密着した状態で上目使いで。
その程度で動揺してしまうなら離れればいいものをそれも出来ないのかそれともしたくないのか。
なるほど、若いねーなどとほのぼのした感想を抱くのをよそに視線はある一点に向いたままだ。
二人の隣に立つ油女家当主、シビ。
彼の右手は背中にまわったままだが、さっきまで片手印を組んでいたのだ。
つまり蝶を誘導したのはあの男ということになる。
何故、なんのため。
するとシビの顔が上がりカカシのいる方向に向けられた。
カカシは驚く。普段無表情を貫くシビの口元が若干上がっているのだ。
それはまるで楽しんでいるようなからかっているような。捉え様によってはいろいろ解釈できそうな。
「なるほどねー」
ホント、お前を知った人間は皆お前に惹かれちゃうんだねぇ。
その結果あの人まで親馬鹿か。
いや、あの人だからこそか。
油女の偏執は自分も知らないわけではない。
「まぁ虫だったら……いざとなったら火遁で対応すればいいか?」
えらく物騒なことを考えつつ、そろそろシノとナルトを引き剥がすためにも偶然を装って参上しましょうかね、とカカシは嘯いた。
 

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 2009/04/15初出

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