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2024年05月19日
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動かないと始まらない

2009年05月07日

動かないと始まらない

 

食べ物に罪はない。
しかし苦手意識をもってしまう食べ物というのがある。
例えば他人が握ったおにぎり。
例えば取り分けてもらった料理。
心理的なものだし、人それぞれだからこれについてどうこう言う気はない。
 

だけども今あの子が遭遇している状況とその表情はまた違う話だ。
 

「さ、ナルトちゃん遠慮しないで」
道のど真ん中。
そう言って秋道チョウザさんはナルトを促した。
ナルトの手には巨大な肉マン……ただし半分こされたそれが。
もう半分は俺、はたけカカシの手にある。
半分なのにナルトの両手に持ってもまだ余るそれはチョウザさん自ら作った特製肉マン(試作)だという。
「今回のは文句なしの美味しさだよ。冷める前に食べて」  
ニコニコ笑いながら3つ目に手を出すのは秋道チョウジ君。
「……シカマルにあげればいいのに。オレなんかじゃなくてさ」
ぽつりと呟いたナルトは多分意識しないで言葉を溢してしまったんだろう。
だから自分の言ったことに滲ませてしまった感情に狼狽しながら俺とチョウザさんとチョウジ君の顔を見て、俯いた。
時折出るその自虐癖はなんとかならないかなぁ。
俺が分かるか分からないかくらいな溜息をつくとナルトの肩が小さく上下した。
 

「おじさんね、まずナルトちゃんに食べてもらいたかったんだよ」
 

チョウザさんの言葉にナルトはハッと顔をあげる。
「なんで?」
「どうしても」
すごく美味く出来たー秋道チョウザ会心の作だーこれはナルトちゃんに食べてもらわねばー!ってね。
だからナルトちゃんを探しまわってね。
ここで会えたからよかったけど見つからなかったら里中走ることになっておじさん痩せちゃうとこだったよ。
「そうだよ。僕も一緒に痩せちゃうとこだったよ」
そう言って笑う秋道親子にナルトもつられたのか笑い返す。
「……食べていいってば?」
「どうぞどうぞ」
恐る恐るといった感じで肉マンを口にするナルト。
しかし見る間に表情が明るくなっていく。
「すごいオイシーってば!」
さっきまでの憂いの表情はなんだったのか。
すごい勢いで肉マンをぱくつくナルトに俺は苦笑する。
まだまだあるから、とチョウザさんに紙袋を押し付けられたナルトはその量を見て驚く。
「いくらなんでもこんなには無理だってば!」
「じゃ、シカマルんとこに行く?」
「それがいいってばね。じゃ、カカシ先生またね」
「ん」
元気よく手を振って、ナルトはチョウジ君と共に奈良家に向かって歩き出していった。
角を曲がって二人の姿が見えなくなったのを確認してから、チラリと横に視線を流す。
「なにかな?」
「いえ……ナルト、よく食べたなーと思いまして」
与えられたのは肉マンだけどもそれだけじゃない。
手ずからのそれに籠められたのは「気持ち」。
それを敏感に察知したから、そしてそれに慣れていないから戸惑ったのがさっきのナルトだ。
「ははは。まぁちょっと策を弄したけどね」
肉マンを丸々1つ差し出されたならばナルトだっていくらでもその場を誤魔化せた。
しかし半分にされて手渡されたそれをそのままにしておくことは出来ないだろう。
人の手を警戒するあの子には多少強引な手ではあるが有効な手段。
その為に自分がダシにされたという。ただそれだけの話。
「で、カカシ君は食べてくれないのかい?」
「……イタダキマス」
口布を下げて一瞬で肉マンを片付ける。
ん、ホントに美味い。
「まーねぇ、ツメさんがノリノリだからねぇ。負けてられないしね」
ゴホッ。
咽た。
「カカシ君はー……ホント、昔から一途だ。“先生”なのも大変だ?」
「……そりゃドーモ」
多少涙目なままチョウザさんを見ると、彼は豪快に笑った。
 


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 2009/04/12

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