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いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 6

2011年01月17日

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 6



夕食は宿の名物料理の数々(サスケとサクラがこの下準備を手伝ったとのこと)で、それを堪能したあとは割り当てられた部屋で眠って明日の帰還に備えるばかりとなった。
深夜と呼ばれるにふさわしい時間。
ナルトはすでに就寝モードのサクラを起こさないようにそっと部屋を抜け出し入浴セットを手に浴場に向かう。
室内設備の大浴場も気持ちよかったが、今目指すのは混浴露天風呂のほうだ。
話題だというそれに是非浸かってみたいという思いはあったのだがそこは男女混浴ということがネックになっていた。要は恥ずかしいというやつだ。
それと、もしかしたら自分がいることで嫌な思いをする人もいるかもしれない、という気後れ。モヤが呟いた言葉が一瞬よぎったがナルトはそれを振り払う。
(今だったらきっと誰もいないと思うってばー……)
脱衣場からそこを覗くと誰の気配も感じない。
(やった!)
小さくガッツポーズをしたナルトはすばやく着衣を脱ぎ捨て浴場に向かう。
人の手が入っているとはいえ自然を活かした造り。岩を組んでつくられたそこは豊富な透明な湯で満たされている。
十分にかけ湯をしてからゆっくりと湯に入る。それなりな広さの湯場の中央には石が備え付けられていてそこへ体を委ねながら湯に浸かっていく。手足を伸ばしながら見上げた空には満天の星。まさに露天。
自然とナルトから感嘆の声がもれた。
「きもち、いーってばよぉぉ」
「それはよかった」
声のする方向を見るとそこには岩に体を預けて半身浴モードのカカシがいた。
「え、え、えええー。いつの間にーっ?!」
「ナルトがここに来たときには先生はもういたけど?……気配、読めなかったの?」
「読めるわけねーってば」
「あらー?てっきり先生のことを追いかけてきたと思ったのにぃ。残念だなー。先生はね、これでもいちおー顔隠し系忍者なわけだからねぇ。人目を避けてたらこんな時間になっちゃったのよ」 
「……今、顔隠してないってばよ?」
「他に誰もいないしネー?それにさナルトと二人っきりなら隠す必要ないし」
ね?と小首を傾げて微笑むカカシをナルトは顔半分まで湯に浸かりぶくぶくさせながら上目づかいで見返す。
「でもよかったよ、ナルトの裸をその辺の男に見られるようなことになったらそいつのこと殺っちゃうしね。せっかくの温泉が血の海カラーになる」
「なっ……!!」
カカシという男は、自分がもっと幼い頃に出会いそして何故だか気に入られ今に至っているわけだが本当にタチが悪い、と思う。
そしてなんだかちっとも理解できないがまっすぐにぶつけてくる愛情表現に慣れてしまった自分も大概だ、とナルトは思う。
(だって先生、ウソは言わないし。きっとほんとに血の海になるし)
「ところでナルト。ここの湯ね、子宝の湯って言われてるんだって」
知ってたー?とざぶざぶと湯をかきわけて近づいてくるカカシの姿をあらためて確認したナルトはヒクっと喉を鳴らして、吠えた。
「ぎゃーっ!まえ、かくせってば!それよりもこっち来んな!」
距離を稼ごうとナルトも抵抗をするが所詮カカシのリーチ差には敵わない。
「ナールト♪」
右腕をガシッと掴まれたナルトはもう少しで叫び声をあげそうになった。だがそれよりも速くカカシはナルトの口を手で押さえる。そして脱衣所方面に鋭い視線を流したと思った瞬間、ナルトごと瞬身の術で中央の石の影に身を潜めた。
 

脱衣所の方向から二人の人間の気配と声がした。
「はぁ、今日も疲れたねぇ」
モヤとチギだ。
豪快にかけ湯をするモヤの隣でチギが桶に湯を溜めながら「今日はカカシさん達が来てくれて助かったね。皆働き者だし。ちょっと下忍時代のこと、思い出さなかった?」と言う。
「確かにね。まぁキツネの子がくるとは思わなかったけど」
ナルトのいる位置からは石によって死角になっているせいで彼女達の姿は確認できないがモヤの言葉に反応してびくついた。
いまだにナルトの口を押さえたままのカカシにもそれは伝わったのだろう。ちらりとナルトを見たのに何も言わない。
「キツネの子って、母さん……。ナルトさんは素直ないい子じゃない」
「お前の言いたいことはわかるよ。思ったよりもあの子はいい子だったさ。でもね、あの子の存在さえいなきゃ、私は忍びを続けてこれたはずさっ!」
感情そのままにモヤは桶を床に叩きつける。周辺は音を反響する壁に囲まれていないはずなのにそれは大きく響いた。
「またその話?もう何回目?」
チギの呆れたような、それでいて苦笑混じりな声がする。
モヤももしかして九尾事件でなにかしらの被害を受けたのかもしれない。だからだ。そう感じたナルトは湯面を見つめるばかりだった。相変わらずカカシは何も言わない。
湯に浸かったモヤとチギの会話は続いている。
「チギ。お前もこんなとこでくすぶっていたくないだろ。甲斐性見せてオトコ掴まえなさい。せっかく上忍が来てるというのに。お前も元くのいちならそれなりに手練手管で」
「はたけ上忍に?それは無理。あの人は生粋の忍びよ。母さんも知ってるでしょ。くのいちの技なんて相手が忍びだったら逆効果。お互い手の内がわかったうえで仕掛けても。……それに私は宿の仕事が好きだもの。ねぇ母さん?また堂々巡りよ」
「まぁはたけ上忍だったら上出来だけど、でもエリート過ぎるからねぇ。あんた、オトコもいないんだし、誰でもいいから婿にしてこの宿を継いでもらって」
「母さん……」
「そういえばなんていったっけ、お前の初恋の男。あいつは今も忍びやってるんだろ?次の搬入時は指名するからそのときは」
「いつまでも子供の頃の話を持ち出さないでっ。……あの人が里の忍びであることが私もうれしいんだから」
「チギ。私はあんたのことを思ってね?」
「……もういいから」
モヤとチギの間の会話のやりとりがずれているなぁとナルトは思った。でもオカアサンというのはこんな感じなのだろうか。そしてぼんやりと思う。チギには初恋の人がいる。それを揶揄されるナルトの脳裏にはチギとの会話のやりとりで思いつく人物が一人いて、そうだったらいいな、となんとなく嬉しく思う。
「ごめん母さん。ほんと、申し訳ないけど放っておいて。一方的だったしあの人も気づいてないし。それにあの人にも好みがあるだろうし。宿の跡継ぎとカワタもまったく考えていないわけじゃないから。でも今はこのままでいいでしょ」
湯面がちゃぷと揺れた。
「馬鹿だねアンタは。今相手を掴まえておかないでいつするんだい。大体アタシのときと事情が違うんだ。今は里にいないんだよ?……それこそあのキツネの子を見習いなさいよ。コドモなナリして媚び売るのに長けちゃって。はたけ上忍を誑かしているじゃない。マンセル組んでる男の子も、あの子だけ違う作業だってのを気にしてたし。ホント、末恐ろしいよ」
その時、ちゃぷちゃぷと揺れていたはずの湯面がざばぁっという音とともに乱れた。
ナルトの口を押さえていた手が無い。慌ててナルトが振り返るとカカシがいつの間にか仁王立ちしていた。よく見ると口元も腰まわりもタオルで覆い隠している。
そのカカシがざぶざぶと湯をかきわけて歩む。
モヤもチギも、もちろんナルトも唖然としてカカシの行動を見つめた。
「モヤさん」
「は、はいっ」
「あの子」
カカシが親指で後方を示す先にはナルトがいた。それをモヤが視認して青ざめた。
「あ、あの、」
「あの子にはちゃーんとうずまきナルトって名前があんのよ?知ってると思っていたんだけど。キツネの子なんて言い方、気に食わないなぁ。訂正してくれる?」
「は、はいっ」
「あとさ、マンセル組んでいる男子がって、それモヤさんの勘違いね?ありないよね?」
ぶるぶると震えながらも顔を縦に振るモヤにカカシはのほほんとした口調のまま続ける。
「それとさー、この子は誰かに媚売ったことなんて無ーいよ?常にまっすぐ相手と向き合うの。わかってるでしょ?それが眩しいから、こっちがやましい思いがあるから見返せないんだよ。なんで認めないの?認めたら負けだと思ってーる?」
「……っ」
「俺がこの子が好きで好きでたまらんのよ?俺のお嫁さんだし?だからさぁ、俺がお嫁さん愛ゆえに怒るのはありだよねー」
なにやら不穏なことを言い出したカカシにナルトはひくっとノドを鳴らす。
この展開はヤバイってばよ。カカシに関わるようになってからいつの間にか身についてしまった予兆にナルトは青冷めた。
その証拠にカカシが猛スピードで印を組み始めている。
「せ、先生……?!」
「カカシさん?!」
「土遁!土流壁・改!」
その瞬間カカシがニヤリと笑った、とナルトは思った。実際はその口元はタオルに覆われているというのに表情が見えたのだ。
土ぼこりが朦々としたあとに現れたそれは。
「うん。いい仕事したーね」
「せ、せせせ」
「なに?」
「カカシせんせー!」
そこに現れたのは……。
「ゴージャスになったねぇ」
と満足気に頷くカカシのえらそうに嘯く姿を、ナルトは温泉に入っているというのになぜか冷や汗を垂らしながら見返した。チギは困った顔で笑っている。
真っ青な顔で固まっていたモヤはというと我にかえった途端に現状にまた固まる。 
その騒ぎに気がついたムナギがその場に突入してそれが目に入った。
それは。
だばだばと口から温泉水を吐き出している犬をモチーフにした像。その造形はなんとなくカカシの忍犬の中でいえばブルに似ている、とナルトは思った。それは風情あると評される宿にはそぐわないシロモノだった。
 

その任務から二ヶ月ほどたった。
ほむら亭に新たな名物が出来てそれが評判になり今では予約客で半年分の宿泊枠が埋まっている、ということをイルカが教えてくれた。
「ナルト!サスケ!サクラ!お前らあそこに任務で泊まったことあるんだよなっ。羨ましいぞ!」
無類の温泉好きのイルカにそう言われてサスケとサクラは視線を彷徨わせナルトはあははーと感情の篭らない笑い声を上げる。
カカシはといえば。
「アレで稼いでいるの?バックマージンもらわないといけないねぇ」
もちろんその金は俺とナルトの幸せ資金~♪なんて嘯いていて、そんなカカシの様子をナルトは呆れるながらも(あー、慣れって怖いってば)と思うのであった。
 

どっとはらい。
 

注)子宝の湯と呼ばれる温泉に入ったからといって確実に妊娠できるという伝えはありません。が、冷えや月経不順といった婦人科系症状が緩和される泉質が多く、体を温めて冷えを改善することで妊娠に近づくケースがあると考えられているそうです。

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