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2024年05月19日
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2011年01月16日

その先に、嬉しそうに笑う君。


そのコドモと会う場所はいつも同じ場所だ。
窓がなく、唯一の侵入口が扉だけ、という部屋。
狭くはない。むしろコドモ一人に与えられる部屋にしては広すぎじゃないかと思われて、それがそのコの境遇とあいまってさびしい印象を常に与えていた。
この部屋の主は一人のコドモ。ワケありのコドモ。俺の先生の……遺したコ。
生まれたらきっと可愛がる。大事にするだろうとその日を待ちわびていた希望のコ。
あの事件さえなければ俺はもちろん、里中の祝福が約束されていただろうに。
時を経て、コドモがいるという部屋への入室が許された時、コドモは俺を見てポカンとしたままだった。俺もなんて声をかけていいかわからなかった。

訪問を重ねた中で、コドモはもしかして声が出せないのだろうかそれとももしやお察しくださいとレベルの子なのだろうかとそんな風に思い始めていた対象がある日を境に子供らしい発語をしたと思ったら次に会ったときにはずいぶんと話す子になっていた。
その変化に驚きつつも、相手を求めての会話なのか完全な独り言なのか判断が出来かねる脈絡のなさそうな、それでも本人の中では数珠繋ぎなのだろう流れに適当に相槌をうつ。
正直、子供という存在は苦手なんだ。自分も子供だった時代もあったはずなのに。
そんな風に考えながらの対応でもコドモは嬉しそうに笑って、おしゃべりを続ける。
俺は俯いたままそれを聞く。面をつけたままだからどんな表情をしているかなんて目の前のコドモにはわからないだろう。

「わんわん!」

任務に追われる日々に中で半年ぶりの訪問になった今日。コドモらしい表現の名を呼ばれ面の下で苦笑する。
その日もコドモは俺の訪問を喜んでいた。いつも以上に喜んでいたと思う。
だから突然の変化に対応できなかったのだ。
今までと同じく幾許かの一方的なおしゃべりに適当に相槌をうっていた。と思っていたらコドモが一瞬静かになった。その違和に気がついて顔を上げると部屋の隅を目がけて走っていくコドモが見えた。。その先にはコドモ用の寝具が畳まれている。
その中の毛布を手に取ったと思ったらそのままそれに包まり、その場に突っ伏して動かなくなる。

「……なんなのヨ?」

小さな存在の、初めて見せる行動に正直いえばどうしていいかわからない。
いつもおざなりの対応でも構ってもらえればコドモは無邪気に喜んでいたというのに。
それを密かに俺も喜んでいたというのに。

「……ホントーになんなの?俺がここにいるのがヤなの?だったら今日はもう帰るよ」

コドモが毛布の中から顔だけを出して、俺を見た。
俺はといえばずっとその塊を見つめていたものだから自然と視線が合うことになる。
そのことに気がついたであろうコドモは、嬉しそうでそれでも泣きそうで、とにかくものすごくぐちゃぐちゃな表情をしたと思ったら再び毛布の中に隠れた。
姿を隠して拗ねてみせる、その我儘さ。
けれど見つけて貰えるように隠れる臆病さ。
抱きあげなければ顔は見せないうつ伏せの体勢。
……幼い体の全てが、自分を優しく抱き締めるように、と訴えかけてくる。
あのコの成長とともに付加されるであろう機微を察し切れない。本当に子供というのは不可解だ。
でもそれを遥かに上回ったコドモの、それこそ子供っぽい幼さを可愛く思う。
大切にしたいと改めて決意し、すぐに今このような事態を招いたは自分なのだと反省する。ところが心を占めるのは喜びだ。後悔したのはほんの一瞬だ。
あのコには常により幸せでいて欲しいという願いが俺の中で生まれる。
俺は浮かんでくる笑みを抑えることが出来ない。
そうしてそっと囁き腕を伸ばした。

「……ねぇ。顔見せて?いつもみたいに笑ってくれないの?ナールト?」

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ちまナルというものにチャレンジしてみたんですが。ぐぐぐぐ。


2010/12/23~2011/1/16

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