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2024年05月19日
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いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 5

2010年12月31日

いつだって君という存在に一喜一憂しているよ 5



「これを全部だってば?」
「ああ。やってもらえるかい?」
モヤが指した先には木材。木を伐採したそれが大量に横たわっている。これらを手ごろな大きさにして薪にする。熱材として利用するのだ。
ほら、とモヤから渡された薪割り斧を手に取ったナルトが任せておけってば!と高らかに宣言したのだがモヤはそれを見て表情を固くし、頼んだよと告げてその場を離れる。
去り際に「なんであのキツネの子がここに」と呟いて。
それは本当に小さな呟きだったがナルトの耳にはしっかりと聞こえたのだ。
しばしの間、立ち尽くしていたナルトだったが「よーしっやるってばよ!」と気合の一声とともに斧を手にした。
 

薪割りというのは一連の流れさえつかめればあとは単純作業である。
コン、コン、とリズミカルに薪を作り上げていたナルトはふと周辺が暗くなっていることに気がついた。見渡すともうすっかり日が暮れていた。
額に浮かんだ汗を拭おうとしたのだけれども斧の握った形に指が固まってうまく動かせないことにナルトは気がついた。
ゆっくりと手の平を開くとそこにはマメが出来ていた。
どんな任務も夢中になるのはナルトの美点のひとつだ、とは以前カカシがナルトを評した言葉である。ただし夢中になりすぎて周囲の状況を見れないのが難だとも。
「あらー。見事なマメだこと」
いつの間にかそこにいたのかカカシがナルトのそばにかがみこんでいた。
カカシがナルトの両手をとり、その手のひらにふーふーと息をはきかける。
「先生?なにしてるってば?」
「んー?気休めってやつ?」
なんとなーくだけどこうされると痛みが和らぐ気がしない?とカカシが目元に柔らかい表情を浮かべて告げるとナルトは徐々に頬を赤く染めていく。
「オ、オレってばこんなん、全然平気だってば!それよりもさ先生!オレってば一人で頑張ったってば!見て、この薪の数!」
「……一人で?サスケとサクラは一緒じゃないの?」
「う、うん」
カカシの声が一段低くなった。
「そういえばいないねぇ」
不穏な気配を纏って周辺を見回すカカシに、ナルトは慌てて「オレはここを任されたけど!サスケやサクラちゃんは別なとこで仕事してると思うってば」と今はこの場にいない二人のフォローを試みる。
「ふーん?」
カカシの気をもろに食らった故か、木々でその身を安らげていたはずの鳥達がさざめく。それは周辺の暗さも相まって不気味は演出となり、ナルトは少し震えた。
「それに薪割りってけっこういい修行になったってばよ?スタミナついたってば!」
「……ナルトがそういうんなら別にいーけど」
ようやくナルトに向き直ったカカシにナルトは安堵する。
「あ、ナルトー!と、カカシ先生。ここにいたんですね」
建物の影からサクラが顔を出した。その後方にはチギが立っていた。
「チギさんがねー、ナルトと私に用があるんですって」
 

ナルトとサクラが連れてこられた部屋には大八車で運んだ荷物が収められていた。それらはどうやら客用の湯帷子で、それは主に女性用なのだろうなと思わせるデザインばかりだった。
「キレイだってば……」
室内に広げられた衣や反物。そこに描かれた花や柄を見てナルトがほぅと呟く。
「これもステキ!可愛いっ」とサクラも楽しげに見ている。
「うちは泊まり客がほとんどなんだけどね、そういう方々にちょっとしたサービスというのを私なりに考えてみたの」
チギが微笑む。
二人にも着てもらおうと思うんだけど。私の見立てでもいい?
チギが言うとサクラとナルトは「えっ?」と顔を見合わせたが笑って頷いた。
藍で染め抜いた生地を見て「これってばイルカ先生に似合いそうだってば?」とナルトが言うとサクラもそうねーと同意する。
「カカシ先生にだって似合うと思うけど?」とサクラがにまにましながら言うと「カカシ先生はこっちのほうだってば!」と別な生地を指差す。
それは薄肌色地で、粋な矢絣の連続模様が特徴的だった。
「そうね。あっちは海野君向きかも、こういうのは確かにカカシさんが似合いそう」とチギは微笑む。
チギの口から出たある人物への呼び方になにかしらのひっかかりを感じたナルトは顔を上げる。
「チギねーちゃん、イルカ先生のこと知っているってば?」
するとチギはすこし微妙な表情を浮かべる。
「実は私海野君と同期でね」
「え、チギさんもアカデミー出身なんですか?」
「そうなの、一応これでも元忍びなの。下忍止まりだったけど」
じゃ私たちの先輩なんですね!と喜ぶサクラにチギは小さく頷いた。
「あの頃の海野君はクラスのムードメーカーでね。いつも皆を盛り上げてくれていたわ。いろいろと励ましてもらったこともあって……いい思い出。アカデミーを卒業してからは任務で一緒になることもなくて……それからしばらくして私は引退しちゃってここに来たからもう何年も会ってないんだけど」
「イルカ先生ってば昔っからそうだったんだってばね!オレにもイルカ先生が笑って励ましてくれたりするんだけどさ嬉しくなって頑張るぞー!って気になるってば」
「ね。海野君の笑顔っていいわよね」
そうやって笑い合うナルトとチギのほのぼのとした雰囲気をサクラも楽しんでいたのだがふと何事かの気配を感じる。
襖の隙間から己の担当上忍が「イルカめぇぇ……」と呟きながら睨みこんでいるのが見えた。
サクラは声にならない悲鳴をあげた。

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