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2024年05月19日
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閉じゆく世界で君を見つけた

2009年04月21日

閉じゆく世界で君を見つけた
 


任務で血を見るのがもはや普通。
その血が自分のモノか今倒れ伏した相手のモノかの違いで。
誰のものであってもそれに酔うのもいつものことだった。
 

月が厚い雲に隠されているせいか周囲はほの暗い。
新月時ほどではないとはいえこんな夜も兎にも角にも忙しい。
敵忍を迎撃した帰路。
軽い疲労感を感じたので足を止めて木の根元に座り込んだ。
応急処置を施さずにいる左手から滴る赤。
「まーた生き残っちゃったねぇ」
いつの間にこんなに死にたがりになったんだろう。
それでも父が、友が、師が残していった力はそう易々と自分をそちら側に連れて行ってくれない。
そんな自分を持て余す。そして今胸の内に燻っている感情も。
動物を模した面を被ったまま、そんな自分を哂う。
どうせ誰もいやしないから。
そんな時。
「……怪我してるってば?」
思わず漏れた、そんな響きを持つ声が耳に入った。
瞬時にその方向にある気配に視線をめぐらすと所在無さげに立つ一人の子供の姿がいた。
「!」
いきなりこの子が現れたような気がした。
気配がなかったのだ。というよりも……森の空気と一体となっている。それくらい希薄な。
「オレ、傷薬もってるから」
そういってその子供はカカシの前に跪いてポーチから包帯と傷薬を取り出して手当てを始めようとする。
「今の俺に近づかないほうがいいよ」
伸ばされた手を払いのけて低く呟く。
それに一瞬びくついた動きを見せた子供は、それでも「血を止めないとダメだってば」と言い張るので黙して腕を差し出した。
子供は小さな手で意外にも器用に手当てをする。
「これでヨシ!だってば」
出来に満足したのか満面の笑みでカカシを見上げる。
ほのかな月影に照らされて淡く輝く子供の色彩は蒼い瞳と金色の髪。
それまで黙って見ていたカカシは面の奥でゆっくりと口角をあげる。
「こんな時間に何してたの」
「散歩だってば」
「……お前自分のことオレとか言ってたけど女でしょ?」
「うん」
「ふーん」
カカシは子供の腕をとって地に押し付けた。
「……!何するんだってば!」
「俺さ、警告したよね?近づかないほうがいいよーって」
相手、してもらうから。
告げたと同時に子供に覆いかぶさった。
 

幾時間か経ち。
1つの影が身を起こした。
その影の側には横たわる影。
「……ま、これに懲りたら忠告はきちんと聞いときなさいね。
痛い思いはしたくないデショ?」
カカシは着衣の乱れを直しながらそう嘯いて視線を子供に向ける。
気になるのは子供の反応が鈍かったこと。
普通ああいう目に合ったら暴れるなり喚くなり泣くなり……それなりに抵抗をするだろうに。
突然の出来事にショックを受けてしまって、とか?
自分のやったことを棚にあげてそんなことを考えていた。
そのまま子供を見つめているとその瞳が揺らいできたのがわかった。
泣くか?と思った瞬間。
「う……・うわぁぁぁぁっ!」と、これぞ子供ってやつは!というような見事な泣きっぷりをその子が見せた。
いつもなら事が済んだらさっさとその場を去るのだけど勢いよく泣く様にある意味感動してしまったせいかそのまま留まった。
だから盛大な泣き声と共に告げられた言葉を耳にすることになった。
それは今後のカカシに多大な影響を与える運命の言葉だった。
「こういうことは一番好きな人としないといけないんだってばー!」
「は?」
「ミズキ先生がそう……そう言ってたってばー!うわーん」
「……ミズキ先生って、誰?」
「ア、アカデミーの先生!オ、オレなんかにも優しくしてくる先生だってばぁ……!」
「アカデミー……」
「オレってば皆に嫌われてるけど!でも、でもっミズキ先生は優しいってば!」
「そうなの……」
「だから先生のお嫁さんになりたかったけど、もうダメ!うわぁぁぁんッ!」
泣き声が最大音量になったと思ったら途端に静かになった。
覗き込んだ子供の瞳は固く閉じられていて。どうやら気絶しているようだった。
なるほど、感情が高ぶりすぎると人間はシャットダウンしちゃんだねぇとぼんやりと思う。
それよりもあれか?アカデミーの、と言っていた。
つまりはそういう年齢。
この子供は将来忍になる可能性も秘めていて、ならばくのいちの特殊授業でそういう話もきいているはずなのにこんな甘っちょろいことを言っているのかと。
そして。
あれを。
一番好きな人とする行為だと言った。
その人のお嫁さんになるんだと。
「……そうか。じゃーお前、俺のお嫁サンね?」
好きになってくれるの?俺を?
一番に俺を想ってくれてるんだ?
浮き立つ心を抑えきれなくて、くすくす笑いながら面をずらす。
意識を失ったままの子供の頬に自分のそれを摺り寄せる。
そうして気絶したままの子供を抱え上げ、己が身に着けていたコートでそっと包む込む。
お嫁さんはまだコドモ。
いつかその瞳に自分だけを映してくれるというならばその為に生きるのも酔狂か、とカカシは思う。
「じゃまずはお前の名前と住居の確認をしておかないとねー……火影様に聞けばいいか」
宝物のように子供を抱きしめながらカカシは火影邸を目指して地を蹴った。


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 2009/04/01初出

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