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2024年05月19日
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戸惑いはゆっくりなにかを殺していく

2010年08月03日
戸惑いはゆっくりなにかを殺していく


オレがカップラーメンを食べようと思ってお湯を沸かそうとした時、突然カカシ先生が部屋に飛び込んできた。
珍しく荒々しい音を立てながら、カカシ先生が一直線にオレが立っている台所に進んでくる。
オレは呆気にとられてそれを見ていた。
カカシ先生はオレのすぐ後ろで止まったあと、何かを躊躇うかのようにして手を少し動かした。
カカシ先生が一瞬動きを止めて、ぐっとあごを引く。オレはやはりそれを見ている。
その手が次に動いたときには、何か恐ろしいものに捕まってしまったような気になって思わずカカシ先生の名前を呼んでいた。
時々、ほんの時々だけどカカシ先生はオレの知らない顔をして、オレの知らない感情を必死に押し殺そうとする。
カカシ先生の中で渦巻いているもの、オレの見当のつかないもの。オレが触れられないものが、蓄積しているのが分かる。
何も出来ないし何も言えないし、オレはそれを前にして、無力だ。
それでもカカシ先生は何も言わない。
オレの手首というよりは、肘に近いところを掴む手の平は、いつになく冷たかった。
「先生、ラーメン、食べるってば?」
返事は無かった。代わりに、オレの腕を握る力が強くなる。
ずっと使っている古いやかんが、ピーと音を吹いた。
火、消さなきゃ。オレがそっちへ視線を動かすのとほぼ同時に、カカシ先生は手を離してベッドの方へ歩いていった。
「どうしたってば?」と声を掛けるべきだったのかもしれない。でも今のオレにはそれが出来ない。
恐ろしいもの。カカシ先生はそれを隠そうとする。オレはそれに触れられない。
火を消した後。振り返ると、あぐらを掻いて額に手を当て俯くカカシ先生の背中を見た。オレよりも大きな背中が、曲線を描いて柔らかな輪郭を作っていた。
そのとき、オレは別に何かしようと思ったわけではなかったのだけど、カカシ先生が酷く脆く見えてしまって、カカシ先生の中で何か普通ではないことが起こっている気がして、思わず隣にしゃがみこんで名前を呼んだ。先ほどとは、まったく違う調子の声。
「先生、カカシ先生、どうしたんだってば、先生」
何度も何度も名前を呼んだ。
カカシ先生は呼ばれるたびに僅かに頷いては反応を示してくれていたのだけど、次第にそれも小さくなって、ついに反応は返ってこなくなった。
オレはカカシ先生の抱える恐ろしいものを推し量る手段を持ち合わせてはいない。
どうしよう、という文句がぐるぐると頭の中を巡っていた。そして掛ける言葉も尽きたとき、オレは気付いたのだ。
カカシ先生は息さえも押し殺し固く目を閉じ、溢れそうになる感情を堪えていた。
どうしたんだってば、先生、どうしたのどうしたのどうしたの。次の瞬間、オレの両腕はカカシ先生の肩を掴んで揺さぶっていた。
カカシ先生は動かなかった。息を押し殺すこともやめようとしなかった。
ただ、ゆっくりとこちらを見た。
「…なんで」
今にも消えてしまいそうな声が聞こえた。カカシ先生の声だった。
「いつも言わないの」
オレは声の出し方を忘れてしまって、ただ先生の顔を見つめるだけだ。
カカシ先生は言葉を続けた。今この瞬間のカカシ先生は、オレが知るカカシ先生の中で一番弱かった。弱くて脆くてそれでも怖かった。
「俺が、助ける。次は助ける」
お前に暴力を振るわれる前に。あいつらなんてどうでもいいよ。
それはダメだってば、と声を出そうとしたけれどもオレはカカシ先生の腕の中に閉じ込められてしまう。反論の声も先生の腕の中で押し殺されてしまう。
でもああ、先生は今、泣いているのだなと思った。
オレはぼんやりと考える。恐ろしいものの存在を。

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九ちゃんがでてないですが第三弾。
LOV(一部)設定で。

元拍手文。
2010/7/16~2010/8/2
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