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2024年05月19日
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Fake×Fake

2010年07月10日
初の現代パロディーです。

Fake×Fake


あっという間だった。
窓に水滴がついたなと思って外を見ると雨が降り始めた。
はじめはぽつりぽつりと。次第に本格的に。
道行く人達が雨を避けるために慌てて走り去ったりしている。
それをファーストフード店の二階に設置された窓際席に座って見ていた。
値段に見合った紙コップに入ったホットコーヒーを一口飲むと目の前のノートパソコンに向き直る。
画面に表示されているのは作成途中の文書だ。

外が暗くなってきたような気がして再び顔を上げる。
雨は相変わらず降り続いていて雑踏は色とりどりの傘で溢れている。
(あれ?)
そんな中、一人だけ傘も差さずに歩いている子がいた。手にはボストンバッグ。
ずいぶんと濡れてみえる髪は金。
(外国人は傘を差さないっていうし、それかねぇ)
でもこの雨だ。
雨宿りをするなりしてやり過ごせばいいだけだ。わざわざ濡れる必要はないと思うのだが。
(……え?)
その子がこちらを見ている。

階段を上がってくる足音が聞こえてくる。
まさか。
ひょこ、と店内に顔を出したのは金色の、さっきの子。
そのまま彼女は俺のほうに向かってきて隣の席にバッグを置きそのまま椅子に座るとバッグを開けて中からタオルを取り出し濡れた体を拭きだした。
「……」
その子がじっとこちらを見つめているから視線が痛い。
瞳が蒼い。やはり外国人なのだろう。
「ねぇねぇおっさんってば」
流暢な日本語が飛び込んできた。
おっさんとはまさか俺のことか。俺は断じておっさんではない。が、そんな俺の心の主張も先ほどから寄ってくるその子によって沈黙するしかない。
「あれ?おっさんかと思ったらけっこう若いってば……?」
店内からひそとした笑い声が起きた。
思わず周囲をにらみつけると他の客達が視線をそらす。
確かに俺の髪色は銀なので場合によっては白髪に見えるかもしれない。それにお世辞にも姿勢がいいわけでなく猫背気味だから勘違いしたのかもしれない。
「……なに?ちなみに俺は君の事、覚えがないんだけど」
「うん。ショタイメンってやつだってばよ」
でもさっきオレのこと見てたってばよね、と笑顔を見せた。にかっと笑うという表現がぴったりなそれは彼女を少し幼く見せた。
「それで何?」
「うん。おっさんは何してる人?会社員?」
「……まぁそんなところだ」
「へー!じゃお金持ち?」
「働いている人がみんなが皆、金持ちってわけじゃないデショ」
ふーんと言いながら今度はその子は体を寄せてくる。どうやら俺のノートパソコンの画面が気になるらしい。
俺はそれをそっと閉じた。
「仕事関係?」
「そ。だから部外者には見せられないの」
するりと俺のそばに近づいてきたその子との会話は途切れることがなく続いていた。
もっぱら彼女がいろいろ話し俺が時折うなづくといったものだけど、気がつけば俺はその子にココアを奢っていた。
俺ももう一杯コーヒーを飲もうと思っていたのでそのついでみたいなもんだがそれくらいには打ち解けていた。
しかし思った以上に長居をしてしまったかもしれない。雨もいつの間にか止んでいる。
壁時計で時間を確認しノートパソコンをしまう俺に「帰るってば?」とその子は聞いてくる。
「まーね。いい暇つぶしになったよ。楽しかった。じゃーね」
と立ち上がった俺の腕を彼女がスーツの袖を引っ張った。
まだ何か?と思って彼女の顔を見る。
「ねぇねぇ、おっさんってば。今晩オレを買わない?」
客もまばらな店内にその声は意外なことによく響き、その場にいた者の視線を一斉に集めることになった。


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沙匠さまから出されたお題(「学園パロ」「渋谷」「淫行罪」)に沿ってみたお話。
続けるとしたら痛いお話になる可能性大。10/24のイベント合わせの本になるかもです。

2010/7/10~2010/7/10拍手文。
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