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2024年05月19日
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止まない雨はない

2010年07月01日
止まない雨はない


雨が降った。

自分達の仕事というのは農業従事者ほどではないが天候に左右されることがある。
今がそれだ。
「ナルト。止まれ」
「え、でも先生。あとは里に戻るだけだろー?いけるって」
「さすがにこの土砂降りじゃ視界が利かないだろう?それに雨に濡れると体力が持っていかれる。無理して進んで不利な状況になる必要もない」
確かこのあたりに、仮小屋がある。体を休めるには十分な。

粗末な出来の押戸を動かして中に入るとやはり外見通りに簡素な作りだった。
「あ、意外に広い?」
ナルトが室内を興味深げに眺めている。
例えていうならばここは狩猟小屋なのだろう。それなりのスペースもある。
台所はないけれどもそれを補う中央の囲炉裏。横になって体を休めることが出来るそれなりのスペースもある。
大名や名家が娯楽のために利用するそれとは違って、生計を立てている者の季節ごとに利用する「拠点」だ。
しばらく使ってなかったと思われる室内は多少埃っぽいが不衛生というわけではない。多少の雨も仕方ないとばかりに窓をあけると空気が流れて幾分快適になる。
とりあえず火をおこして体を温めたほうがいいなと思っていると、意外なことにナルトがさくさくと準備を始める。
「あ。あのさあのさ、エロ仙人と旅してたときさ、たまに野宿とかあってさ」
どうやらその時の経験が活かされているらしい。
『七班』で行動していたときはそれほどサバイバルを要求する任務をあてがったことはないから、おそらくそれ系のスキルはナルトのいう通り自来也様とともに行動していたときに培ったものなのだろう。
「じゃナルトに任せようかなー期待しているよー」
「まかせておけって!」
嬉しそうなナルトに思わず俺も微笑む。

「はい、先生」
ナルトが囲炉裏をはさんで対面からカップを差し出してきた。
中身は白湯だ。
こういうことも自来也様から教わったのかもしれない。
本来だったら俺が教え込まないといけなかったあれこれ。教えてあげたかったけれども『時』が許してくれなかった。

雨は相変わらず降っている。
立て膝にした両足を両腕で抱え込んだ姿勢、いわゆる体育座りでぼんやりと火を覗き込んでいるナルトを見る。

「こっち、来ない?」
手を差し伸べる。その先でナルトが泣きそうな表情を浮かべている。

「カカシ先生」
「なーに」
「私ってば火影になりたい。火影になってみんなに認められたい」
「うん」
「木の葉の里が好きだから、みんなを幸せにしたい」
「うん」
「その中には先生も入っているんだってばよ?」
「うん」
「先生」
「うん」
「先生」
「うん」

俺もこの子を幸せにしたい。
でもそれは誰かの手でなくて俺の手で幸せにしてあげたい。それが俺の希望。
でもそのせいでこの子は苦しんでいるのだ。

雨はまだ止まない。
きっとこのまま夜を明かしてしまうだろう。

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蒼さまのチャットナイツに後押しされてLOV設定で。
九ちゃんが出てませんが。きっとおとなしくおなかの中でこの会話に耳を傾けているはず。

The night is long that never finds the day.
シェイクスピアのマクベスに「明けない夜はない」という台詞があります。「この世に明けぬ夜はなし」みたいに訳されています。

2010/6/22~2010/7/1の拍手文。
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