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2024年05月19日
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2010年06月23日
美味しい条件



ナルトがラーメンが好きだということは当然知っていた。
本人もそう言ってたし、一楽でそれはそれは美味しそうに食べる姿を目にすれば納得できる。
だから美味しい顔をもっと見たくて、何気に言ったのだ。その店のことを。

「え?ラーメンをいっぱい食って、それでさらに金までもらえんの?そこドコだってば?」

「条件ありだけどなー。お、ここだ」
俺の言葉に無邪気に喜んでいたナルトが視線を上げると、その店先には今時珍しい「30分以内に食べ切ったら一万両!」の張り紙が。
「……へー」
ナルトは張り紙と店内の様子を見比べている。
そして俺はというと注意書きとして失敗したら五千両をいただきます、と小さく書かれているのを目にして、唸る。
誰でも成功できるようならこういうことはしないだろう。つまりそれで元が取れるということだ。
「無理そう?だったら……」
俺が声をかけるとすでにナルトはすたすたと店内に入っていった後。俺が慌ててナルトの後を追うと、ナルトはカウンターの一席に腰を下ろしていた。
「表のやつ、ホントなんだってば?」
開口一番そんなことを言うもので、店主の目がきらりと光る。
「お客さん、あれ挑戦すんのかい?」
「おう」
やる気なさげに返答するナルトに、店主はカウンターからテーブルに移るように指示した。
店の中に居た何人かの客が、ひそひそと、あるいはくすくすとさざめきながらナルトを見ている。
俺はそんな空気の中、ナルトの前に腰を下ろした。
「お前、大丈夫?」
俺の問い掛けにもナルトは答えない。居心地悪い時間が過ぎていき、やがてラーメンが運ばれてきた。
「うっ」
唸ったのはナルトではなく俺の方だった。
桶かこれはと言いたくなるような特盛りサイズの丼。何人前だか見当も付かないが、三~四人前では済まなそうな量だった。
「かっきり十杯分の麺だ」
店主がにやにや笑っている。
「そんだけのボリュームで失敗しても五千両なんだ、お徳だろ?」
勘定のみで言うなら確かにお徳かもしれないが、制限時間は30分しかないのである。
しかも、麺とスープだけならともかく、メンマ、葱、海苔にチャーシュー卵にナルトと、きっちり十人分全種を載せられているようなのだ。食べ切れるとは到底思えない。
「これって、スープも……?」
恐る恐る確認する俺に、店主は何をかいわんやとばかりに大きく頷く。
「……」
もうもうと沸き立つ湯気から漂うスープの匂いに、俺は早くも満腹感を覚えていた。
「さぁ、時間測るぞ。用意はいいな。……せぇの、スタート!」
店主の掛け声と共に、ナルトが丼に食らい付く……と思っていた俺の予想を裏切ってナルトはラーメンの丼をむっつりと見つめたままだ。他の客も、微動だにしないその様子にざわめく。
「ちょ……!」
焦った俺は身を乗り出した。無理だと思いつつ、しかしむざむざ五千両を払うのは惜しまれた。せめて半分くらいは食べて元を取って欲しい。
そんな俺をナルトは見遣ると、別段慌てる様子もなくへらっと笑った。
「いただきまーす、だってばよ」
「えっ……」
俺は目の前の状況を呆然と見ていた。
ナルトは、黙々とラーメンを啜っている。
店主の顔に笑みが浮かぶ。だがそれは、引き攣った笑みだった。

店長が苦い顔をしながら、プラスチックの盆に載せられた『賞金』と記してあるポチ袋をナルトに差し出した。
「ごちそーさま、だってば」
ナルトは礼を言って受け取り、そのまま立ち上がる。
何処にあれが入っているのだろう……。あの小さい体に大量のラーメンが納まっているようにはどうしても見えない。
「先生?」
ナルトの呼びかけに慌てて立ち上がると、店主は顔を引き攣らせつつもナルトに声を掛けてきた。
「うちのラーメン、美味かったろ」
美味いからあんなにあっさり入ったんだ。そんな風に自分を慰めようとしたらしい店主は、次の瞬間引っ繰り返る羽目になる。
「あんまし。一楽のラーメンの方が美味いってばよ」
首を傾げながら応えたナルトを抱え込んで俺は急いで店外に出た。

「……あんなこと言うんじゃないよ」
「何で?嘘は言ってないってばよ?」
けろりとした顔をして言い放つナルトに、俺は顔を顰める。
「あのね、ナルト……」
「だってさだってさ、あいつ、客が飯食ってんのずっと睨んでんだもん。客の連中も」
おかしいってばそういうの、でもしょうがないかも、オレってば。ごめんなさい先生。
段々と声が小さくなっていたナルトが「でも先生のおかげで面白いこと体験できたってば」と言う。
「あ……」
店に入る前、ナルトがやたらと張り紙を見ていると思ったのだがあれは張り紙ではなく店主や他の客の表情を見ていたのかもしれない。
ナルトがあんなむっつりした顔をして食事をしているところなど見たことがなかったが、実はそういう理由だったのかもしれない。
「腹、減ったってばよー」
唐突な言葉に、俺は驚く。
「ちょ……な……ま、マジで!?」
あれだけ食べた後で未だ足りないというのか。呆れを通り越して空恐ろしくなる。
「何か口直ししたくないってば?」とナルトはニシシと笑う。
頭が痛くなったが、今はナルトが手に入れた賞金がある。
「……何が食べたい?ナルトが食べたいものがあったら、これで行けるよ?」
二人で入っても、一万両あればそこそこいいものが食べられそうだ。先程のラーメン分底上げもあるし、いかにナルトと言えど阿呆な食い方は出来まい。
俺の言葉に、ナルトは俺の顔をじっと見詰める。
「何でもいいってば」
大概のものは食べられる。思いつかないなら大まかにでも言ってくれれば、良さげな店を見繕うからと勧めると、ナルトはうーんと唸る。
「じゃあ、一楽」
「は?」
そんなの、いつでも食べられるではないか。しかも今さっきラーメンを食べたというのに?
俺が首を傾げるとナルトは頬を染めて。
「あそこのラーメンってあったかくて美味しくて」
うれしくて、ついつい食べ過ぎるってば。しかも先生と一緒だともっとうれしくて。
そんなことを言う。
急に疲れが出たような気がして、俺はがっくり項垂れる。
「……先生?」
心配そうに俺の顔を覗き込んだナルトをひょいと抱え上げる。
誰に気兼ねすることなく、嫌味な店員にじろじろ見られることもなく、楽しい食事が出来る。
「一楽は今日はだめ。先生が野菜ジュース作ってあげる。途中でスーパーに寄っていくーよ!」
「え?ええ?帰るのはいいけど野菜はノーサンキュー!あとハズカシーから降ろしてってばよーっ!」
つまりそういうことなのだ。


2010/6/2~2010/6/22
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