忍者ブログ

[PR]

2024年05月19日
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

結婚できない男 8

2010年04月20日
『娘が三人の求婚者にいやだといってしまったら、今度は自分から行って求婚しなければならない』
byスウェーデンの諺


結婚できない男 8


綱手が診断をしている間、ナルトはそわそわとしていた。
「可愛い部下がせっかく見舞いに来ているんだ。回復も早そうだな」
綱手がそんなことを言い、シズネが「そうですよね」と微笑む。カカシはといえば「はは、確かに」と笑って答えている。
そしてナルトは時折シズネと目が合い、そのたびに彼女が微笑むものだから背中にイヤな汗をかいていた。

「おや、それは」
「ナルトの差し入れなんです」
テーブルに置かれたガラス器に目を留めた綱手の言葉にカカシは答え、それにナルトはびくりとする。
「あのさあのさ!あとでばーちゃんとこにも持っていこうと思っててさっ、コレ!」
プリンが入っている紙袋をずいっと綱手に押し付けるナルトにカカシは目を丸くする。
「プリン……俺の為に作ってくれたんじゃないんだ?」
「カカシ先生に作ってきたんだってば!あ、いや、えっと」
途端に真っ赤になったり青くなったりするナルトのテンパリぶりに綱手とシズネは笑う。
しばらくはそんなナルトの様子を見ていた綱手がコホンと咳払いをして「ナルト」と呼びかけた。
「なんだってば、ばーちゃん」
「私がカカシとシズネを娶わせようとしたことはお前も知っているな?」
「……うん。だってあの時オレ達の前でそう言って、先生もいいよって返事してたってばね」
「ところがな」
綱手が告げた次の言葉にナルトは目を丸くした。
「この二人、うまくいかなったんだよ。しかもカカシの方から断ったというし。まったく何が不満なんだか」
「えっ?!」
「ちょっと、綱手様……」
困惑の色を含ませてカカシが止めに入ろうとするが綱手はそれを視線で制し、話を続ける。
「シズネもカカシもいい年だというのに。里の発展のためにも子供の一人や二人くらい作っておけ」
綱手の物言いにナルトもカカシも絶句する。
「綱手様、何気に横暴発言ですよ。それにカカシさんとのことは私も納得してますし」
「そうか?」
「そうです」
ちゃんと経緯を説明してなかったせいでしょうか、とシズネが言う。
「カカシさんについては同じ忍びとしてのリスクを背負っていける仲間として尊敬してますけど、それだけです。カカシさんも同意見だったようで、会うのはいつも仕事がらみでしかなかったですし。……だから区切りとしてカカシさんのほうから。そもそも私は結婚願望は高くないですから」
「そうなのかい?」
「ええ、それに綱手様のお世話をするので手一杯ですし、綱手様が結婚しないうちは私もしませんー」
シズネの言葉を受けて、むむっとした表情を綱手が見せる。
「だから、そういうことです」
シズネがにっこりと微笑んだ。

綱手とシズネが去り、室内は再びカカシとナルトの二人っきりとなった。
「先生、あの、あのさ」
「かっこ悪いよねー俺」
あそこまでシズネさんに言わせてさー、と苦笑するとナルトは首を横に振って返事とした。
「はは……」と力無く笑いながら、カカシは食べかけだったプリンを手にとって食べ始めた。そして美味し、と小さく呟いた。
ずずいっと上半身を乗り出してナルトがカカシに迫る。
「先生、なんでシズネねーちゃんを断ったんだってば?今までそんなことなかったってばよね?」
スプーンを咥えたままでうーんとカカシは唸る。
「なんていうか、違うなーって思ったんだよね」
「違う?」
「俺は……確かに結婚願望が強いんだけどさ、その相手はシズネさんじゃないなって。考えてみたら今までの人ともいざ付き合おうと決めてもそれだけで相手に興味を持てなかったんだよネー。そういうのを相手は感じ取って去っていったわけだ」
先生それって最低かもーとナルトがうわぁぁという表情をしながら言う。
「そ、俺って最低なの」とカカシは苦笑した。

そうだ、とカカシは掛けてあった己のベストから巻物を一本取り出した。
「俺はまだしばらく入院することになるだろうからもし任務がなくて時間があるようだったらこの巻物を見て勉強しなさい」
はい、と差し出したそれをナルトが興味津々で取った。
が、カカシは巻物から手を離さない。
「カカシ先生?」
「こんなこと、今のタイミングで言うのはあれだけどさ」
「うん?」
「俺と結婚してくれる?ナルト?」
「いいってばよ」
「……えっ」
室内が一瞬沈黙で支配される。
「いいと思ったから返事したんだけどダメだったってば?」
「い、いや。……お前、サイと付き合ってるんじゃないのか?」
「カカシ先生、それ何の冗談だってばー」
大笑いするナルトを見てカカシは脱力する。
そして彼独特の困った風な表情で微笑んだ。

「んで、結婚するんだ」
「そ」
いつもはナルトとアンコがよく利用する甘味処の軒先に設えた席。
そこに今日はアンコとチャクラがすっかり回復したカカシが並んで座っていた。
ほうほう、とアンコは団子を頬張りながら「なんでナルト?」と問う。
「ナルトだから、としか言いようがないなー」とカカシは後頭部を掻く。その表情は普段の飄々として真意を読ませないものではなく分かりやすいほどの照れを浮かべていた。
そうか、と呟いたアンコはカカシの首に腕を回してぐいっと引き寄せ「よし、ナルトにブーケトスはアタシに寄こすように言っておいて」とその耳元で囁いた。
え、と驚くカカシにアンコは「次に続いてやる」と不敵に笑う。
相手いるの?と問いたカカシにアンコはアッパーを食らわせて沈めた。



『結婚するやつは馬鹿だ。しないやつは――もっと馬鹿だ。』
byバーナード・ショー

----------
これにて完。お付き合いいただきましてありがとうございました!
PR