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2024年05月19日
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結婚できない男 1

2010年03月09日
「今の見た?ナルトっ」
「もちろんだってばよ!サクラちゃん!」
「……ふん」
今、この瞬間、自分達の視界に入った出来事は、まだまだ忍びとしての意識よりも恋愛事がメインとなる桃色の髪の子にとっても、アカデミー時代には周囲の教師陣をその大胆ないたずらで翻弄していた金色の髪の子にとっても、復讐心に心を囚われていびつな心の成長を遂げようとしている黒色の髪の子にとっても、衝撃的だった。
すなわち。
「カカシ先生、綺麗なねーちゃんとデートしてるってば!」


結婚できない男 1


「馬っ鹿ナルト、声大きいっ!」
ナルトの口元を押さえるために羽交い絞めめいたことをしているサクラとそれを受けてもがき苦しんでいるナルト。
それらをちらりと見たサスケは店先に視界を戻す。
窓際に座っている己の上司とその連れであると予想された、対面の女性。
「あれは……デートなのか?」
ぼそりと呟いた声を拾う者は周囲にいない。
サスケが疑問に思ったのも仕方ない。
向かい合って座る二人はずっと俯いたままなのだ。

集合時間はとっくの昔に過ぎている、そんな時間にカカシは現れた。
「やぁ~すまんすまん、今日はな……」
そして毎度のことながら胡散臭い言い訳を告げようととしたのだが。
「……サクラ~?ナルト~?君達は何でそんな風に乗り出してきているのかなー?」
いかにも聞きたいことがあるんですよっといった態でわくわくと目を輝かせている二人にカカシは尋ねる。
「あのさあのさっカカシ先生っ!オレってば昨日!昨日の演習のあとサクラちゃんとサスケと打倒カカシ先生を合言葉に作戦会議のために甘味処に行った!」
「そうなの。何食べたの?」
「もちろんお汁粉!サクラちゃんは新作のクリーム善哉で、サスケは団子食った!」
「美味しかった?」
「うん、美味かったー!んで、すっげー作戦を皆で考えたから今度こそカカシ先生をぎゃふんって言わせてやるってばよー!」
「ははは。期待してるよー」
「ってナルト!いつになったら本題に入るのよ!」
サクラがこぶしを振り上げて会話に割って入った。
ナルトが叱られたワンコよろしく小さくなって「ごめんってばよーサクラちゃんーオレってばやっぱ無理ー」とか言う様子を見てカカシは首を傾げる。
「なんだーサクラ?今日俺をぎゃふんと言わせる作戦を思いついたーって話じゃなーいの?」
「全っ然、違います」
じゃ、なーに?という風に視線でカカシは会話を促すが、会話の主導権を奪い取ったはずのサクラは途端にあらぬ方向を見てあーとかうーとか唸っている。
ならばサスケに聞くかとカカシがその方向に顔を向け言いなさいと顎で示すと、当のサスケも視線をそらす。が、ぼそぼそと呟きはじめた。
「俺達は昨日見たんだ。お前が女と一緒にいたところ」
「……見たの?」
こくこくこく、と3つの頭が縦に動く。
それを見たカカシは「そうかー見てたんだー」と困った表情を浮かべて後頭部を掻いている。
「カカシ先生、あのネーチャンと結婚するんだってば?」
「いつから付き合ってるんですか?!」
ずずいっと寄ってきたナルトとサクラにカカシは苦笑で応える。
「うーん、違う。正しくは彼女さん、だったヒト」
「「「は?」」」
「俺、あの日振られちゃったんだよねー」
だから昨日のは元彼女、ってやつ。
やー恥ずかしいところ見られちゃったなぁはははーと、カカシの笑い声が演習場に響き渡った。

サクラもナルトもサスケも、人生経験についていえば、今目の前で笑っている男よりも当然少ない。
だがそんな自分達にだって男女の機微はわからないでもない。
それなのにあっけらかんと笑ってみせるはたけカカシという自分達の上司。失恋した、というならば多少は落ち込むべきではないのだろうか。
いい年しているであろう大人がそんなんでいいのか、と子供心に思った出来事であった。


『人は無我夢中に急いで結婚するから一生悔いることになる。』
byモリエール
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