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溢れ出す気持ちにまだ名はない(無自覚3)

2009年04月14日

溢れ出す気持ちにまだ名はない(無自覚3)
 


さわさわと風が草を撫でる。
演習場は数あるものだからここのように誰も使用していない場所もある。
忍犬達が思い思いに過ごしているようにカカシもその時間を共有する。
木陰の下に座り込み右手にはいつもの本。
ふと忍犬達の気配が変わったので窺ってみると全員である一点を見つめている。
その視線の先を追いかけると……・金の髪を持つ子供がいた。
「あれ?カカシ先生ー?それにパックン達も?」
自分達の姿に気がついたのか小走りで近づいてくる。
「よ、ナルト。こんなところで奇遇だな」
「カカシ先生はここで何してるってば?」
「見ての通り、読書。お前は?」
「オレってば修行!」
ナルトは風呂敷包みと水筒を持っている。
ということは一日中修行に時間を費やすというのか。
熱心なことだ、とカカシは思う。
今日のような任務の無い休日に指定された日。
体を休めることも大事だというのに目の前の子供は前に進むために常に一生懸命だ。
「そ。頑張んなさいね」
ここで本に視線を戻せばいつものような自然な流れ。
が、そうならなかったのはナルトが縋りついてきていたからだ。
「ねーねー先生っだったらさーオレに修行つけてくれってば」
ナルトの手が、指がカカシのベストを掴んでいる。
それをじっと見て視線をナルトの顔に戻すとまっすぐにこちらを見ていた。
「・・・」
「先生?」
なんでもなーいよ、とカカシは答えた。
 

修行修行!と強請るナルトをカカシは手で制す。
「お前はチャクラを練るが下手だ。ペース配分も。まずは散漫になりがちな集中力をなんとかしなさい」
「むー、だって……」
「だってじゃないでしょ」
土台はいいのだ。チャクラの量は申し分ない。
だがコントロールがよくない。
このままでいいわけはない。いずれなんらかの形で支障が出ることもありえる。
それが任務中だとしたら場合によっては。
「でもさオレってば地味ぃに繰り返すのが苦手だし……」
「んーじゃあね。こういうのはどう?」
ちょっとした遊びなんだけどねとカカシは両手指を合わせる。
そして人指し指だけ離し、指同士をぶつからないようにクルクルと回した。ある程度動かすと今度はそれを逆に回す。
中指、薬指、小指、最後に親指も同じように動かした。
「指の体操っていったところかなー」とカカシが目で促すとナルトも指を合わせてみた。
「あれ?先生みたいに動かないってば」
「練習すれば速くなるよー?」
コクンと頷いたナルトは再び目線を自分の指に向ける。
 

俯いたまま指先に集中しているナルト。
カカシはというと静かにそれを眺めている。
本はとっくにポーチに仕舞っている。
彼の視点ではナルトの小さい頭は顔よりも金色の髪の毛が大きく占められていた。
(あ、つむじ)
カカシの目に入ってきたそれ。自然に手が動いた。
「ひゃっ!」
ナルトがびっくりして大きな声をあげる。小さく飛び跳ねたかもしれない。
「先生!いきなり何するんだってば!」
「あれ?……あはは」
「あははじゃないってばよ!」
そう、カカシは例えていうならズビシッという擬音が出る勢いでナルトのつむじを押したのだ。
「下痢になったらどうするんだってばー・・・」
「オンナノコがそんなこというんじゃありません」
そもそもオンナノコの一人称はオレではないのだがこれに関しては口癖なようなもので注意してもなかなか直らない。
「だってそういうツボだって……キバ達が言ってたもん……」
つむじを押さえながら少し目元を朱に染めてナルトは答える。
「つむじのツボってのはそういうんじゃなくてね、頭痛を和らげたりするんだよ」
カカシの言葉を聞いてナルトは首を傾げる。
「頭痛、してないってばよ?」
「うん。だからそうならないように先生が押してあげたの」
ニッコリと目で表情を作るカカシ。
「だってお前頭から湯気でそうだったよ?」
集中しすぎて、とカカシが言うと先生が集中力つけろっていったんじゃないかー!とナルトがほえる。
 

お前の目に俺を映してほしくなったんだよ、と言えば目の前の子供は困るだろうか。
口布に隠されているのでナルトに窺い知ることはできないのだが、カカシの口元が上がっていた。
そんな主人の様子を少し離れたところから眺める忍犬達。
お互い目で会話をして小さくため息をついた。



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 2009/03/09初出

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