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2024年05月19日
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百花繚乱恋の歌 5

2010年01月26日
衝撃がでかくて声が出ない。


百花繚乱恋の歌 5 明日ありと思う心の仇桜


「で?なんでアイツがついてきてるのッ」
「さぁな」
紅がいらいらした口調で後方に視線を流すとアスマも面倒くさそうに答える。
本日の任務を終えた俺達の後ろを、少し距離を置いて美夕が歩いている。
俺達の視線を受けたことに気がついたのか、美夕が明るい表情を浮かべて走り寄ってきて、俺の手をとる。
「ねぇねぇ、カカシはこのあとどうするの?」
「どうって……自主練しに行くんだけど」
「自主錬?」
「今日はなかったけど俺達の班は毎回サスケ先生に挑むんだよ」
そう。サスケ班の構成はそれぞれ得手不得手はあるけれども全員戦闘系なのだ。
いずれ前線に立つかもしれないタイプである自分達の能力は伸ばすのも活かすのも実践経験の積み重ねだ。
だから模擬戦といえども、俺達もサスケ先生も手は抜かない。
今日みたいに早くに任務が終わった日で各々の予定がなければ一緒に鍛錬をする。
というか、サスケ先生が持ってくる任務は大概予定時間よりも早く終わることが多く、そんな俺達の気持ちも考慮しているんだと思う。
もちろんサスケ先生はボキャが足りないのでそういうことは口にしなかったが、自主錬をしているという俺達に対して「成長期なお前らには休息も大事だから、配分を考えてやれよ」と、その時はいつもよりも視線を柔らかにして助言してくれたものだ。
「へー!先生には勝てっこないのに頑張ってるんだぁ」
美夕の一言に、紅のコメカミに青筋が立った。
その表情を見たアスマはあわてて「で、お前は?」とその場の空気を変えようと美夕に問いかける。
「ん、美夕?美夕はー、カカシと一緒にいたいなぁと思ってぇ。でも自主錬かぁ」
困ったなという口調で答える美夕に紅は「帰れ。邪魔だから帰れ」とその目力で訴えている。
「カカシが自主錬するなら美夕も付き合うー。アスマ達も、いてもいいよぉ」
ビキビキ。表現したらまさにそんな感じの音だ。
紅がぶるぶると震えている。
「お、おい。紅」
「……アスマ!私、今日は帰るよ。悪いね」そう言い残して紅は走り去っていった。
その紅の様子を見たアスマが俺に視線を向ける。アイコンタクトでやりとりをした。
「面倒くせーな」と呟き、アスマも踵を返した。その方向は紅が去ったほうだ。
アスマの背中に「そういうこと言うもんじゃないって。でも紅のあれはわかるよ」と声をかけると、アスマは片手をあげてそれに応えてくれた。
「あれー、二人とも帰っちゃったんだ?」
俺の腕にまとわりつきながら美夕が笑う。

しばらくは的にめがけて苦無を当てることを繰り返していたが、一人ではやれることに限りはあるのだ。
美夕はというと少しはなれた場所の木の根元に座り込んでずっと俺のやることを見ている。
……せっかくなら自分も鍛錬すればいいのに。
俺は小さくため息をつく。
手持ちの装備を片付けながら「俺、帰るよ」と声をかけると彼女は途端に晴れやかな表情を浮かべて「だったら、お茶しにいこうよっ」という。
金、無いし、甘味処って気分でもないんだよね。
そう告げると「実はちょっとカカシに話があって……それで、ね?いいかなぁ」ともじもじしている。
何がそれでね?なのかワカラナイ。
「今聞くよ。何?」
「え、えーと」
美夕は視線をさ迷わせている。時々俺のほうをちらちら見る。
「なんなの」
「あの、あのね!」
一瞬の出来事だった。
美夕の手が俺のほうにのびて、口布に手をかけた。
そして。

「……っ!お前っ」
「私ね。カカシが好きなの!……知ってたと思うけど、アカデミーの頃からずーっと!だってカカシって」
美夕がなにか懸命に訴えているけれどもほとんど頭に入ってこない。
「だからカカシ。私と付き合って?」
右手で口元を押さえたまま、俺は呆然とした態で美夕を視界に入れている。

見知った気配を感じた。感じたというか突き刺さった。
それくらいその気配の存在は突然だった。
美夕の後方、木の影からこちらを見ているのは頭からマントで覆い隠してはいるが暗部特有の装束を身に着けた、それも狐を模した面を被った人。
(うずまきさん?なんでここに?ていうか今の見られた?)
その人が向きを変えて歩き出した。その姿は木立に紛れる。
慌てて俺はそのあとを追う。後方で美夕が大きな声で俺を呼び止めていたがそれどころじゃなかった。

ようやくうずまきさんの片手をつかまえた時にはそれなりの距離がかかっていた。
「あ、あの、あのなんていうかあれは違うんですっ」
俺は肩で息をしながらも必死に言い募った。うずまきさんがゆっくりと振り返る。
「あれってば?」
「うずまきさんが見たこと。違うんです。誤解なんです。俺、俺はあいつのこと、なんとも思ってないから」
うずまきさんは面を被ったまま、小首を傾げる。表情がわからない。
「……わかった。もう終わりにしよってば」
「え」
「カカシ、オレ任務あるから。任務前に顔見たくなってちょっと寄ったんだってば。ごめんね。今日会えてよかったってば」
そう告げたうずまきさは俺の前から消えた。
彼女がそれまでいた証拠だというようにゆらりと煙が霧散する。
終わりって?
うずまきさん?
「任務なのは本当だ」
呆然と立ち竦んでいる俺の肩にぽんと手を乗せられる。
暗部面のあの男だった。
「なにか……不安になっているのかも知れないけれどもナルト君は君のことがちゃんと好きだよ」
そんなこと言ったって今うずまきさんは俺に別れを告げたんだよ?
「……帰還は三日後予定だ。考え込んで、早まった真似だけはしないように」
そして暗部面の男も消えた。

「つーかまえたッ!カカシったら、いきなり走り出すからびっくりしちゃったよぉ」
しばらくして俺に追いついた美夕が俺の手に縋り付く。
「……とりあえず、手、離してくれる?」
「カカシ?どうしたの?」
きょとんとした表情を見せる美夕に「手ぇ、離せ。二回も言わせるな」と言い放つ。
びくついた彼女がおずおずと離れるとそのまま振り返ることもせずに、帰るために歩き出した。
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