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2024年05月19日
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百花繚乱恋の歌 2 

2010年01月13日
ただいま俺は自己嫌悪&反省中。


2 男の子と杉の木は育たぬ


解散を告げられたけれども、俺はアスマや紅とともに帰路につくわけでもなく、そのまま演習場よりも奥に足を向けた。
歩き出した俺の後ろをうずまきさんが付いてくる。
「カカシ、なんか調子悪いってば?」
「別に。そんなことはないです」
「そう?」
サスケ先生の話に囚われて感情の制御も出来ないままに、それが態度に出てしまった。
そんないつもと違う俺にうずまきさんが戸惑うのも当然で、今でもこうして心配そうな顔を向けてくれている。

目的を持って歩いていたわけじゃないから幹の立派な杉の木が目に入ったのでその根元に座り込んだ。
うずまきさんも俺に倣って、座った。
風に撫でられて、心地よい葉音がする。少し落ち着いた。
そのうちうずまきさんがはふっと小さく欠伸をこぼし始めた。
「眠いんですか?」
「あ、うん。ちょっと寝不足、なんだってば」
我愛羅ってば我侭なんだってばぁ。自分が不眠気味だからってオレに付き合えとかいってさぁ……とぼそぼそ言っている。
そういえばうずまきさんの口調はいつもより少しゆっくりしている。
「……だったら部屋でゆっくり休んでいればいいのに」
「んー。顔、見たかった、から」
そのまま木にもたれ掛かって目をつぶったうずまきさんの声音は囁くほどの大きさになっていた。
「膝、貸しますよ」
「ん?」
「横になったほうが寝れると思いますし」
パンツの表面を軽く払い、どうぞと促すとうずまきさんは少し頬を赤らめた。
「じゃ、じゃーお借りしますってばね?」
そう言ってころんと横になったうずまきさんと一瞬目があった。
ニシシと笑ううずまきさんに今度は微笑んで応えられた。

すう、と寝息が聞こえた。
「……もう寝付いちゃったわけ?いくらなんでも早すぎでしょ」
苦笑気味に呟く。
風で葉が揺れると差し込む木漏れ日も揺れる。
ちょうどうずまきさんの顔に当たったりそうでなかったりを繰り返すものだから眩しいかも、と思って手を翳す。
影がうまい具合に出来たのを確認して、何気にうずまきさんの顔を覗き込んだ。
いつも笑顔を浮かべている顔は眠っているとずいぶんと慎ましやかに見える。
生え際。まぶた。睫毛。鼻。そして。
俺の視線はうずまきさんの唇を見つめたまま、そこから動かすことが出来なくなっていた。

『ふっ。俺はウスラトンカチとキスしたことがあるからな』

……あんなの、気にするな。
いつものサスケ先生の妄想だ。戯言だ。
でも。
でも?
そっとうずまきさんの顔に自分の顔を近づける。
うずまきさんの息が、感じられるほど、近い。
「寝ている女にキスをしたとしても残るのは後悔だけだから止めておいたほうがいい」
「え」
男性の、少し抑え目で囁く声がした。
草を踏む音がしたので慌ててそちらを見ると暗部面をした男がいた。
その気配の無さ。……音はきっとわざと立てたに違いない。
いつから。
いやそれよりも。
見られた。なにをしようとしていたのかこの男に見られた。
俺の動揺をよそに、木に背中を預けたまま腕を組んで佇んでいる彼は、その面を眠っているうずまきさんに向けている。
「よく寝ている」
「……はい」
不意に面が俺に向けられた。
「なるほど。君がはたけカカシ君なのか」
「え、はい。そうですけど?」
いきなり名前を呼ばれて驚く俺に、それ以上は興味ないというかのようにその人はまた視線をうずまきさんに戻した。
「もう少し眠らせてあげたいが、そろそろ時間だ」
申し訳ないね。
そう一言漏らした彼が一歩踏み出した瞬間、うずまきさんが目を覚ました。
「っ!」
「起きたか」
「あーうん。……迎えに来てくれたんだってば?」
うずまきさんの問いに面の男が小さく頷き「探した」と告げた。
ふーん、とまるで気が入ってないかのような返事をしたうずまきさんは空に向けて手を伸ばす。間接部分から小さくパキ、と音がいくつかした。
「カカシ、よく眠れたってば。ありがと。重くなかったってば?」
「あ、いえ」
「ごめんね、いっぱい話したいことがあったんだけど……」
「いえ、気にしないでください。うずまきさんはこれから任務ですか?」
立ち上がりながら謝罪の言葉を口にするうずまきさんにその必要はないということを答える。
「そんなとこ。しばらくは里にいられるはずだから、今度ちゃんと会おうってば?」
「はい。俺のほうはいつでもいいですよ」
するとうずまきさんは微笑んだ。いつものようにニッコリと。
「よかった。じゃ行ってきます」と後ろ歩きで両手を激しく振るうずまきさんに「いってらっしゃい」と手をあげて応えると本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる。
そんなやりとりを面の男が黙って見ていた。
急ぎではないようで二人は歩いて立ち去るようだったが途中で面の男が何事かを耳打ちするとうずまきさんが相手のみぞおちにひじ打ちを決めて、次の瞬間消えた。瞬身の術を使ったらしい。
その行動はどうやら男にとっても予想外だったらしく、前かがみになりつつも彼は何故か俺のほうを振り返って肩を竦めてみせ、そして姿を消した。
「……?」
俺はぼんやりと消えた二人がいた場所を視界内に押さえていた。
突如現れた暗部面の男。
長い黒髪をひとつに束ねていたその男は忍びとしての才も素晴らしいものだろう。面の下に隠されたその容貌もおそらく。
声も終始穏やかで、うずまきさんとも知らぬ仲のような気がした。
はぁ、と漏らしたため息が意外に大きなもので、自分で驚いた。

一度負の感情に支配されてしまった心はなかなか切り替えが難しい。
こんなコドモっぽい俺をうずまきさんが知ったら呆れたりしないだろうか。
木の根元に蹲ってそんなことをぐるぐると考えた。
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