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2024年05月19日
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未必の恋

2009年12月23日
未必の恋


飲み屋街の雑踏を進む男女。女の足取りはおぼつかなく、時々ふらりと上体が揺れる。
「ほら、うずまきさん。摑まって」
「だいじょーぶ、だいじょーぶだってばよ~」
くたりと凭れかかってきたナルトから伝わる体温に男がこくりとのどを鳴らす。
「どこかで休むか……」
男が周囲を見回すと路地の奥に人目をはばかるような、それでいて闇夜でもはっきりとわかるネオンサイン。
ナルトを支えていた男の手に力が入った。
「……入る?」
「ん、」
その時二人の先に影が立ちはだかった。
「こんな所でなにしてんの、ナルト」
「は、はたけ上忍ッ」
「え、せんせー?おー、1ヶ月ぶりだってばよ~」
「こんな所でなにしてるんだって聞いてんの」
突然現れたカカシに、ナルトの隣に立っていた者は動揺を隠せずにいたが、それに気にも留めずにカカシはナルトに問う。
「呑み。任務後の打ち上げってゆーか。盛り上がったってばよねー」
ねー、とナルトは男に同意を求める。
「え、あ、ああ、うん」
すり、と男の腕に寄り添ったナルトの行動に一瞬眉根を寄せたカカシは、無言でナルトの手を取り、引き寄せた。
酔ったナルトはさほど抵抗もなく納まってしまう。
「そこの君。ナルトはちょっと呑み過ぎたみたいだから俺が責任もって送っていくよ。じゃーね」
「え?せんせーなにかってなこと……っ」
ナルトの抗議は最後まで言い切ることもなく煙とともに消えた。

勝手知ったる。そんな様子でカカシはコップを取り出して勢いよく蛇口を捻った。
自分の椅子に無理やり腰掛けさせられたナルトはぼんやりとそんなカカシの背中を見ていた。
水の入ったコップを無言で差し出されたのでナルトはそれを受け取りごくごくと飲み干した。空になるとまたカカシはそれに水を満たす。
「お前、何考えてるのよ」
「別に……楽しく呑んでただけ、だってばよ」
「あんな冴えない男と、か?」
「せんせー、何気に失礼だってば。あの人、あー見えてすごいんだってばよ?」
アルコールを過剰摂取した体には水道水とはいえ、染み入っていくのだろう。ナルトは二杯目を飲み終えると軽く目を閉じ、はぁ、と息をした。
今日の任務はあの男の働きでずいぶんと助かったとか打ち上げの席で意気投合したから二人で違う店に入って飲みなおしたとか楽しそうに語るナルトに耳を傾けていたカカシはそれを遮る。
「……たったそれだけでホテルまで行くのか。お前は」
「別にいいじゃん。もしかしたらそれがきっかけで新しい恋が始まるかもしれないってばよ?」
ナルトの答えにカカシはぴくりと眉をあげる。
「私ってばぁ、せんせーに振られちゃったしぃ」
ニシシと笑うナルトにカカシは無表情で見返した。


ナルトがカカシに告白をしたのは1ヶ月前、房術指導の最終過程を終えたその日だった。
カカシの答えは、あくまでも元部下の一人でしかないというもの。
最初は師としてしか見ていなかった男とそれなりの時間を費やして任務をこなしていくうちに尊敬や憧れが加わって。
「しかも俺は、結果としてお前の初めての男になったわけだから」
だからナルト。
「お前はそれを恋だと勘違いしたんだよ」
そういって諭すカカシはナルトを見ようともしなかった。


あれ以来二人は顔を合わせることがなかった。
お互い任務におわれていただけなのだが、それでも考えるのには十分な時間だった、とナルトは呟いた。
「あの時、私の気持ちを勘違いで片付けるなーって思ったけどさ。最近せんせーの言う通りかもって思い始めてきたんだってば」
先生は優しいからオレってば甘えちゃって勘違いしたんだってば。
「でももう大丈夫だってば!いつまでも未練がましく破れた恋にすがって生きるほどヤワじゃないんだってばよ。もう忘れ」

ナルトの体が突然宙に浮いた。
カカシに抱きかかえられ、隣室の、自分のベッドに連れ込まれる。投げ出されて慌てて起き上がろうとすれば、カカシの膝がナルトの体を縫い止めた。
「本当のことを、教えてやるよ」
額宛や口布を取り外しながらカカシは告げる。
これまでナルトが一度として見たことのないカカシだった。冷酷で、残虐な意志を目に宿した、恐ろしい夜叉の顔をした男がそこにいた。
ナルトは声を上げるのも忘れ、呆然と魅入られていた。
「愛しているよ」
言葉こそ優しげな愛の囁き、だがその声は、どこまでも冷たいものだった。
ナルトはカカシの言葉を理解することができず、ただカカシの目を見つめていた。

「愛しているよ、ずっと……姿形ではない、何か、をナルトには感じていたよ。他の女とは違う。だからお前の存在が怖かったよ。俺の心をかき乱す存在であるお前を。けれど、俺の目は俺の意志に反してナルトを追ってしまう。ナルトが笑い、ナルトが話す。その姿を見るたびに、俺がどれだけお前を憎んでいたか、お前にはきっと想像もつかないだろう。俺は……俺は、ナルトを憎んで、けれど確かに愛していたよ。ナルトを閉じ込め、鎖で繋ぎ、俺だけの、俺にしか見えないようにしてしまえたらどんなに幸福だろうか、ずっとそう思っていた。そんな狂気を、何も知らないナルトに押し付けるわけにはいかなかった。いや、知られることが怖かった。だからこそ俺はお前を遠ざけ、お前から離れようとしていたのに」
なんで房術指導に俺を指名したんだ。あれさえなければ、まだ。
カカシの言葉が途切れた。ナルトの胸に顔を埋め、微かに吐息を漏らす姿を、ナルトはやはり呆然として見つめていた。
閉じ込め、繋ぎ、封じる。
それはナルトの望む恋の形ではない。それはもっと優しいものでなくてはいけないはずだ。
カカシ先生は、間違っているってば。ナルトはやっとのことで言葉にした。
「違う。お前がまだ理解できないほど幼い、ただそれだけだ」
カカシの指がナルトの服を暴いていく。魔法のようにあっという間に服を脱がされ、ナルトは生まれたままの姿に、いつかカカシと肌を合わせた、房術指導の時と同じ姿になっていた。
「ナルトが俺を忘れるなんて許さない」
やはり冷たいままのカカシの声に、ナルトははっと我に返ってじたばたと暴れ始めた。
体術では勝てた試しがないから無駄だとは分かってはいたが、それでもカカシの下から抜け出そうとナルトは身を捩った。
このままカカシの意のままになってはいけない、何故なら。
「ナルトに、俺を刻むよ」
死刑宣告のように、厳かに告げられる言葉に、ナルトは声を伴わない悲鳴を漏らした。

ぐったりとして身動ぎもしないナルトを、カカシはずっと見下ろしている。
何度抱いたのか、と薄闇の中ぼんやりと考えていた。
情け容赦なく貫き犯した。
死んでしまっただろうか。それならそれでも良い。それで自分だけの物になる。
だが、ナルトの胸が微かに揺れているのを見て、カカシは激しい落胆とそれでいて僅かに安堵する己を感じていた。
理由もなく得たいと望む、それはカカシにとって初めての恐怖だった。
物事には筋道があり全ての現象は原因を伴うもののはずだ。少なくとも、そのはずだった。
なのに、どうしてナルトだけがこの法則から外れてしまうのか、カカシは混乱していた。
どうしてナルトと出会ってしまったろう。傷つけることしかできないのにと瞬時に理解した。
何故なら、閉じ込めたいという願望が強く強くカカシを誘ったからだ。
如何したら閉じ込められるのか、逃がさずに留められるのか、カカシの頭脳は自然と思考していたからだ。
だから今までナルトを傷つけない為に、守る為に突き放してきた。それが自分に許された役割だと確信していた。
ナルトが死んでくれたらいい、とさえ思った。ナルトが死ねば、カカシの手からは逃れられる。
そうしたら、少なくともこの無限の思考の輪から外れられる。どれだけその後が苦しくても、辛くても、それは自分に課せられた罰なのだから甘受できると思った。
にも関わらず、やはりカカシは二度とナルトに会えなくなることも恐れた。
ナルトが、自分の元からいなくなる。それは考えただけで、ぞっとする心地だった。
苦しんでいるのに、こんなにも悩んでいるのに、あの日ナルトがおずおずとカカシに告げた言葉。
「先生のことが好きだってば」
酷い言葉だ。
だから、きっと、傷つけてもいいのだろう、と。
傷つければ、ナルトは自然と自分と距離を置いてくれるだろう、と。だからあの時。

「先生」
思った以上に思考にのめりこんでいたのだろう、ナルトが目を覚ましたことにカカシは気がつかなかった。
「ナル……」
横になったままナルトがカカシに向けて両手を伸ばしてきた。誘われるままに体を向けるとそのままナルトの腕に捉えられ体を預ける形になった。そのままゆっくり髪を梳かれる。
ほら。どんなに無体なことをしてもナルトは俺を許すんだ。
だから、惹かれたのか。
違う。
自分はただ切っ掛けが欲しかっただけではないか。蜘蛛が獲物を待つように、ただナルトを繋ぎとめるための。
「ナルト」
「うん」
「ナルト」
愛しい女に抱きしめられて、カカシは体の力を抜いた。
閉じ込めたかったのに、閉じ込められていることにようやく気がついた。
やはりナルトは、カカシの法則には当てはまらない、不規則極まりない存在なのだ。それでも。

「ごめん。お前を愛しているんだ」


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正しくは「未必の故意」。
故意の一種で、結果の発生が不確実であるが、発生するかもしれないと予見し、かつ、発生することを認容(容認)する場合をいう法律用語。
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