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2024年05月19日
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恋は思案の外

2009年11月30日
恋は思案の外


「私、カカシ先生のことが好きだってば」
教え子の口から出たその台詞に、間抜けなことに「は?」と俺は返した。
だってその子の表情ときたら頬を赤らめ恥らいつつ上目遣いで、まるで恋する乙女。
ただしその姿は土にまみれていて正しくはドロンコだ。
「ナルト。あんたねぇ……せっかく告白するんだったらもう少しシチュエーションを考えなさいよ」
横でサクラが呆れた顔で言う。
「シチュエーションってなんだってば?」
「状況ってこと。それになにも今ここで私達の前ですることはないと思うんだけど」
そう。
ナルトとサクラ、サイそしてヤマト達はDランク任務の帰り道だったらしく、そこに俺が偶然通りかかったんだが。
「そうだね。もうちょっとロマンティックな場所のほうがいいんじゃないかな?せめてカカシ先輩が好みそうなイチャパラなシーンを準えるとか」
ヤマトがそう語るとサクラが鋭い目つきで睨み付けたのでそのまま笑って誤魔化している。
「でもナルトが告る、とは思わなかったよ。あ、告るっていうのはね告白するってことだってこの前読んだ本に書いてあったんだけど」
「あーもうサイはゴチャゴチャうるさいってば!」
……この、俺が置いてきぼりな現状はなんだろう。
「んー、つまり今は告白に向かないってことだってば?」
「そうね」
「うん、わかったってば。じゃ、カカシ先生っ!さっきの無し!次はちゃんとするってばね?」
「は?」
思いっきり宣言するナルトに再び俺はそう返した。
周囲に視線をめぐらすとサクラとヤマトと、サイまでもがその方がいいという顔で頷いていた。
なにがどうしてこうなったのかがわからない。

そもそも恋に繋がる好きとかいう感情とは、
(1)空間的接近
(2)熟知性
(3)類似性
(4)相補性
これらが要因になるわけであって、その適正水準次第なのだ。度を越えればそれは反発や嫌悪に通ずる。
そう考えるとナルトは……。
「まぁどっちかというと好ましい、か?」
でもそれは小さい頃から知っていて面倒を見てきたからというある種の保護者愛というか。
つまりサクラもナルトも俺にとっては同じなのだ。同じなのだが。
……そうそう、さらにナルトは俺の師であった人の忘れ形見だ。
『私、カカシ先生のことが好きだってば』
「んー。困ったね」
次にナルトから告白された時に傷つけないように断るにはどういってやるのが一番なのだろう。
とりあえず長引かせても気を持たせるのもあれだよな、なんて考える。

ところが。
それから待てど暮らせどナルトからのアクションはない。
いや、ナルトの姿は見るのだ。
曰く、それは任務に向かう姿であったり。
曰く、それは阿吽の門のそばで中忍のやつらと談笑していたり。
曰く、それはルーキーズと呼ばれた男子の面々の誰かとふざけあっていたり。
曰く、それは甘味処でやはりルーキーズと呼ばれた女子の面々の誰かとの時間を楽しんでいたり。
曰く、それは、それは、それは。
つまりいつも誰かと一緒にいるのだ。
ねぇナルト。次は、って言ったよね?なんでそんなとこでそんなやつらと笑っているわけ?
この前なんてようやく一人のところを捕まえたと思ったら「これからイルカ先生んとこ行こうかなーって思ってたんだってば。今ならまだアカデミーにいるから」とか言うし。
慌てて「どうせ一楽で奢ってもらおうとか思ったんデショ。いいよ、先生が奢ってあげるから」と言ってしまったけど「ホント?!」と無邪気に喜ぶナルトを見たら思わずこっちもつられてしまって口布の下で笑みをこぼしてしまって。
だが、さすがにそこでナルトが告白をすることはなく、もちろん俺もそれを促すこともなく、つまり二人で一楽の暖簾をくぐってラーメンを食べただけの出来事でしかなかった。
ナルトの、美味しいおいしい!って顔を目の前で見れたのはよかったけど。
でもさ、今現在もナルトからのアクションはないわけで。
次は、って言ったよね?!それは何時よ。俺はいつでも待っているのに。
「そうか」
だったら。

窓から侵入しようとした俺を咎めるけどもそれでも部屋に入れてくれるナルト。
「コーヒーでいいってば?」とヤカンを手にしてナルトが尋ねてくる。
「いいけど。お前ん家、コーヒーとかあったっけ?」と問えば「イルカ先生とか飲むからさー」とか言う。
……ふーん。
イルカ先生もここに来るんだ。ふーん。
コトリ、と置かれたコーヒーから視線を外さないまま「んでナルト、この前のアレはなに?」と聞く。
「アレってば?」
「……俺のこと、好きだって言ったじゃない」
「ああ!ごめんな先生。私考え無しで言っちゃって。次はちゃんと考えて告白するってばね?」
「うん、そうして」
いやそうじゃないし。
「次の告白っていつしてくれるのよ。俺、ずっと待っているのに」  
「先生?」
「告白してくれなきゃ、返事できないじゃない」
「……先生?」 
「だからさ、ずっと、ずーっと待ってたのに。ナルトってばいつも他のヤツらと一緒にいてさ」
「……」
ああ、俺はいつからずっとナルトのことばかり考えていたのか。
「ナルトは俺のことが好きだっていったのに。まるであれ、嘘みたいじゃないの」
あれ?なんで俺、涙ぐんでいるわけ?しかもこの物言い。慌てて目元を己の袖で擦って伺うと、ナルトがなんだか困惑した表情を浮かべていた。
「……先生のこと、好きだってば。ホントに」
「どうせその他大勢と一緒じゃないの?」
ああ、こんな言い方しちゃったらまるで俺が、この俺が、皆に嫉妬してたって思われるじゃない。
自分でも下手こいたな、と思う。その証拠に部屋の空気が動かない。
「先生」
「……」
「カカシ先生」
「……」
バンっとテーブルを叩いた音がした。
ちらりとそちらをみると。
ナルトが。
ナルトがすっごくおっかない顔をして。
「先生ってば、私の!私の気持ちを!疑ったな?!」
吠えた。

後に。
「つまりナルトが自覚したからこそあの時のあの告白だったんですよね」
単なるタイミングですよ、と下忍のころから比べるとずいぶんといろいろと逞しくなったもう一人の子が語る。そういえばこの子はあの当時から恋に敏感であった。
「カカシ先輩は気に入った子はエコ贔屓しますからね。すぐわかりましたけどね。でも……ふふっ」
暗部時代の俺の所業を知っている男が黄昏れながらそう言った。
「告白されることによって相手をそういう対象として意識し始める、というパターンですね。美人さんが貸してくれた本にもそんな恋話、書いてました」
と表情に乏しい後輩が笑みを貼り付けて言う。だがその一言が胸に突き刺さる。
おせっかい焼きめ、とこいつらに雷切を食らわせたい。
が。

つまり恋は思案の外。計算してできるものではないのだ。
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