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2024年05月19日
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二人の食卓

2009年04月06日

ナルトがそろそろ夕飯でも食べようかな、とそれまで見ていた巻物から顔をあげると。
「よ、ナルト!」
「……カカシ先生。何度もいうけどそこは窓で玄関じゃないってば」
野菜籠を小脇に抱えながら片手を上げて挨拶をする担当上忍がいた。
当のカカシはというと細かいことは気にするなとばかりに笑いながら室内に入りテーブルの上に野菜籠を置いた。
「また野菜をこんなに!」
「農家の方が丹精込めて作ったんだぞー。ほーら、美味しそう」
キュウリとトマトを手に取って私を食べてー私を先に食べてーと小芝居を始めたカカシを見るナルトの表情は冷たい。
「オレってばこんなに食べれない」
「好き嫌いしてないで食べなさいよ。ラーメンばっかりじゃなくて野菜もバランスよく摂取するのが大事なんだから」
「そうじゃなくて」
単純に多いのだ。
 

そもそもナルトは一人暮らし。
子供だし、消費する量も高が知れるというもの。
カカシが嫌がらせで野菜の差し入れをしているとは思ってないし、食べきれなくて野菜が傷むのも忍びない。
前回もらった野菜だってまだ残っているのだ。
「あれ?だって無いじゃない」
とカカシが台所のほうを見ると前回持ってきた野菜籠が空っぽになっている。
「それは冷蔵したり冷凍したりしてるんだってば」
「冷凍?」
「下茹でしたやつを小分けにして冷凍したんだってば。必要な時にはいつでも使えるように」
前もらった野菜は葉っぱモノばかりだったし悪くなっちゃうのも早いから……、とナルトは説明する。
「へー。先生、料理しないからそういうのってよくわからないんだよねぇ」
カカシは腕組みをしながらナルトの話を感心して聞いている。
「カカシ先生、自分で料理しないの?」
「しないねぇ」
「作ってくれる彼女とかいないの?上忍なのに」
「上忍なのに、っていうのはちょーっと変な言い方だけど?いないねぇ」
「ふーん。じゃぁオレが作ってやるってば!」
「え」
「先生が一緒に食べてくれれば野菜も減るし!」
ナルトは野菜籠の中身を確認し始めてあれがいいかそれとも……と呟いている。
どうやらメニューを考えているようだ。
カカシはというと黙り込んでいる。
カカシの様子がおかしいのに気がついたナルトが「先生?」と声をかける。
「……んー、なんでもないよ。じゃぁご馳走になろうかな?」
そういってカカシは目を細めた。
 

ナルトはカレーを作ることにした。
じゃがいもや人参、玉ねぎといった野菜を使った一般的なカレーといったところ。
でもそれに一工夫。
意外にも包丁を使って器用に野菜の皮をむいていく様子をカカシが興味深げにみている。
「ねえナルト。大根を何に使うの?」
「カレーにいれるんだってばよ?」
「フライパンは?」
「鍋の代わり」
「……ホント、お前は意外性No.1だねぇ」
「まぁ鍋がないからってのもあるんだけどフライパンはけっこう便利だってばよ。深くないから煮るのも短くて済むし、先生とオレの分だけだったらこの量で十分!」
「へぇ……」
「大根はねー食べてからのお楽しみ!カカシ先生はおっさんだし味覚がホシュテキなのも仕方ないってばね?」
「……先生はおっさんじゃありませんー」
そんなやりとりも楽しくて気がつけばナルトは自作の変な歌を唄いながら料理をしていた。
カカシはそれをくすくす笑いながら見守っていて。
そうこうしているうちにカレーは短時間で出来上がった。
その間に冷凍しておいた塩茹でほうれん草を解凍しておひたしも用意。
カカシが小芝居に使ったキュウリとトマトのサラダも添えた。
カレーに大根が意外にイケルのかとカカシはこの歳になってはじめて知り、その驚きとカレーの美味しさを素直に伝える。
「誰かと一緒のご飯って美味しい!」
「そうだね」
「また作ったら食べてくれるってば?」
「また作ってくれるの?」
そう言って二人は笑う。
この日をきっかけにカカシは度々ナルトの作るご飯でお持てなしを受けることとなる。
 

それから数年。
 

冷蔵庫に入っているタッパー。中には特製ぬか漬け。
今回は茄子を漬けてみたのだ。
野菜を取り出し軽く水洗いをして切る。
切りながら今日サクラと甘味処であんみつをつついていた時の話を思い出す。
「ねぇナルト知ってた?」
「なんだってばサクラちゃん」
「カカシ先生ってね、他人の手作りって食べないんだって」
「え……?」
「もちろんプロの手によるものは別らしいんだけどー。ほら、先生ってあんなんだけどモテルじゃない?作ってあげるーっていう女の人もいるんだけど全て断るんだって」
「な、なんでだってば?」
「無駄に潔癖なのと“相手を信用できないから”だって話よ。……そう考えるとエリートも大変よねぇ」
妙に納得した顔で頷くサクラを見ながらナルトは声もだせなかった。
「ナルト。これ美味しいね」
いきなり声をかけられたことに驚いて振り向くとカカシが立っていて漬物をつまんでいた。
「せんせ……!」
「おーっとナルト。包丁、危ない」
「あ」
包丁を置くために再び流し台のほうに向くナルトにカカシが質問する。
「今日は何を作るのー?」
「……キャベツとひき肉とたまごのせご飯。あと、この漬物」
「それは楽しみだねぇ」
カカシが微笑んだのがわかった。
他の女の人の作るものは食べない先生。
でも私の作るご飯は食べてくれる。昔から。
それってどういうことだってば。
今振り向いて聞いたら先生は答えてくれる?
思わず拳に力が入る。
「ナルト?」
「……先生!」
「はいっ」
「あ、あのさ!あのさ!」
「……うん」
その日の食卓はいつものようにおいしいご飯が並んだのだが、二人の関係はおおいに変わったのである。


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サイト用新作
2009/04/06 初出

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