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2024年05月19日
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だってやっぱりそういうわけで

2009年07月14日

だってやっぱりそういうわけで
 


さやさやと風が草を撫でる音が聞こえる。
日差しはそれなりに強いけれども、その風のおかげで体感温度はさほど高くない。
しかし俺ことはたけカカシが率いる七班のヒヨコな面々はうっすらと汗をかいて地面に這い蹲ったりしている。
今日はさる人物の娘が静養のために訪れたという平原での失せ物探しの任務だ。
「だいたいなんでそんな大切な指輪したまま出掛けるんだってば!大切ならしまっておけばいいのに!」
「馬鹿ねナルト。大切だから常に身に着けていたいんじゃない」
「だがそれを落とすのは本人の不注意だ。本当に大事だったのか?」
「でも探してほしいからこうやって依頼したと思うの。もしかして好きな人からの贈り物だったじゃない!?キャー!」
本日の任務内容を告げた時の三者三様の会話。カカシは苦笑する。
ヒヨコ達が出来るであろうDランク任務はそれなりにある。
雑務レベルなそれを担う下忍達のオシゴトはまさに里に密着しているものだ。そしてこれらの任務レートは安いものだから絶えずある。
里の中心部あたりの御用聞き任務もその辺に位置付けられる。
短時間で済むそれが午前中午後鍛錬、と時間を有効に使う上忍師だったら当然取るパターン。
だが俺は出来るだけそういった任務は請け負わないようにしていた。
できれば里外。それが過保護すぎる想いからくるのはわかっているがかかる火の粉をわざわざ浴びに行く必要は、無い。
「じゃ、がんばってねー」
いつものように皆を送り出した。
今日はナルトがソレを見つけた。
「見つけたってばよー!」
と言って目的の物を高らかに掲げたナルトは誇らしげだ。
サクラは任務から開放されるということで安堵したのか笑いながらへたり込んだし、サスケはというとやっぱりその場でへたり込んだが悔しさを滲ませた表情をして空を仰いでいる。
「はい、集合ー」と俺が号令をかけるとよろよろしつつも三人が集った。
「今日はナルトのお手柄で任務終了ー。おつかれさん」と言ってそれぞれを労うつもりで頭を撫でる。
やっぱりそこでも三者三様な表情。
今日もサクラは髪乱れるからやめてー!とか言いつつ笑う。
サスケはそっぽをむいたまま。でもおとなしく撫でられている。
問題は。
手を伸ばした瞬間、ビクッとするナルトだ。
それでも髪をくしゃくしゃにするくらいに撫で続けると照れくさそうに目を細める。
俺の手はいわゆる大人の手。
で、それがナルトの境遇も相俟って警戒している一因としてもそれなりにチームとして機能している現在。
その表情の流れは察することが出来て。まだまだ信用されてないのかなーでもだったらもう逃げているよな今嬉しそうにしているしなんだか俺も嬉しいしだからいっかぁと思っていつまでも撫でてたら俺の手の下で「先生?」と戸惑った表情の瞳が俺を見つめる。
誤魔化すために両手でさらに頭をわしゃわしゃにした。
「あはは、お前すごい頭なっちゃったねー」
エー?と言って頭を抑えるナルトと、それを見て笑う俺。
そんな様子を呆れた表情でサクラとサスケが見ているのもいつものこと。
 

それでもやはり凝りというものはどこかに残るから、しっくりこないなぁすっきりしないなぁと感じるものだ。
通りを挟んで一楽が見える。感覚を研ぎ澄ますと会話が聞こえる。
「大盛りじゃなくていいのか?ナルト?」
「うん、大丈夫ーその代わり炒めモヤシダブルトッピングで!」
「お、ナルト。野菜か。いい心がけだな」
威勢よいナルトの一言に一楽の店主テウチさんも嬉しそうだ。
えへへ、と笑うナルトの頭をイルカ先生が撫ぜるのが見えた。
イルカ先生には警戒の色が見えないどころか和やかな雰囲気がここまで伝わってくる。
同じ大人の手を持つのにと思ったらなんだかむかつくわけですよ。
「カカシ先生がね。野菜も摂らないと死んじゃうぞーって脅すからさ。たまにはいいかなーって。モヤシと味噌ラーメンって合うんだってばね!オレってば新発見!モヤシは好きになった!」
イルカ先生の手の下でナルトが楽しげに言う。
「あとねカカシ先生もね、任務終わったら頭撫でてくれるってば!」
「そうかぁ。さすがカカシさん、いい先生だ。よかったなナルト!」
そう言ってイルカ先生がますますナルトの頭を撫ぜる。
ああむかつく。
「でもさ!でも俺カカシ先生に嫌われているかもしれない……」
「なにかあったのか?」
「……サクラちゃんとサスケの撫でるついで、かもしれない。今日はたまたまオレが見つけられたけどやっぱり撫でるの最後だったし。カカシ先生、ホントはオレのこといやがっていたらどうしよう?」
「まさかそんなこ「そんなことあるわけないでーしょ」
白煙とともに現れた俺の存在にナルトと一楽店主が目を丸くする。
って、イルカ先生まで?
「……悩み事相談だったら直接の上司である俺に相談しなさいよねー。ナールト?」
腕組みして踏ん反り返ってそう告げると途端にナルトは口をぱくぱくする。
「せ、先生。いつから!」
「さぁね?」
ぎゃー!とナルトが吠える。
「ナルト。もやしはね、種子本来の栄養素に加えて成長しながらさらに別な栄養素も含んでいく特殊な野菜だ。いろいろな栄養素をふんだんに含んだヘルシーな食品で種に蓄えられたデンプンや脂肪、タンパク質など、潜在的な栄養素が加水分解されて、もやしになる段階でエネルギーを放出しながら細胞や組織を作って成長するという特徴があるんだよ」
おや。
一楽店内が沈黙に支配されている。
まぁそんなことはどうでもいい。
ナルトの胸倉をぐいっと掴んで見据える。
「俺がナルトを嫌っているとか、なんでそういうこと言うかなー?どっちかというとさ、ナルトの方が俺を嫌っているんじゃないの?俺に触られる時いっつもびくついているよね?」
「違う!違うってば!ごめんなさい!カカシ先生のこと、すごい尊敬してるってば!」
「そう?」
「そうだってば!オレ、カカシ先生のこと好きだってば!嫌われたくなくてでもどうしたらいいかわからなくて!ごめんなさいってば!」
俺に必死に言い募るナルト。視線はなんだか戸惑った色を見せつつもまっすぐ俺を捉えていて。
……。
「か、カカシさーん!あなた今何しようとしたんですかー!」
おや?
イルカ先生が俺を羽交い絞めし、ナルトが真っ赤な顔して俺の顔を両手で突っぱねようとしている。
「そんな目で見つめられてあんな熱烈告白されちゃったらキスするしかないじゃない」
ナルトがぎゃーッと叫んで、イルカ先生が真っ赤な顔をしつつもアカデミー先生モードで俺にその場に正座!と告げて倫理がどうのと説教モードに入り、テウチさんはというと「あー、話済んだら注文分作るからなー呼んでくれ」と言って奥に引っ込んだ。
イルカ先生の説教が続く中、俺は横に視線を流す。
なぜかナルトも地べたに一緒になって正座している。
そのナルトと視線が合った。
お互い照れ笑いを浮かべていたら「アンタ達、ちゃんと人の話聞いているんですかー!」とイルカ先生が吼えたので揃って肩を竦めてしまい、それでますます二人で笑った。
 

それまでのなんだかよくわからない感情の乱れは何だったのか。
後にその正体を知った時の己の衝撃をご理解いただけるだろうか?
今も彼女は俺のそばで笑ってくれている。
そんな幸せも感じ取っていただければ幸いである。

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